「腰」の範囲

一般に「腰」とは、
「触ることができる一番下の肋骨と、臀溝(でんこう、おしりの割れ目)の始まるところのあいだ」
とされています。
そして意外なことに「腰が痛い」と言って来院なさるかたのうち、「腰」自体に原因があるかたは、2~3割くらいです。

⑴鍼灸適応の腰痛と治療

「腰が痛い」という感覚は、体幹をを支えている筋肉の疲れからのこわばりと、そこからの血行不良が原因です。
このような筋肉の疲れは、背中や股関節・おしりなど、連動して体幹を支え、歩行や様々な日常動作をおこなう周囲の筋肉のパフォーマンスの低下からも起こります。
このため、当院では「腰」だけでなく、背筋・でん部・大腿部など連動性が高い部位のツボや、腰痛の特効穴など、広い範囲に刺鍼・施灸していきます。

⑵腰痛の原因

股関節周りの筋肉

鍼灸治療の適応範囲内の腰痛には、「冷え」が大きく関係しています。
足先だけが冷えている場合を考えてみましょう。
足先の冷たい血が心臓に還るとき、通り道の足腰の筋肉は熱を奪われ、細胞はいつも新陳代謝に最適な温度よりも低温の環境に置かれます。
そのため疲労解消が十分できず蓄積して、違和感・痛みが出るようになります。

腰の上半分(肋骨が終わり腰骨が始まるまでの部分)には硬い骨がなく、かなり自由に動かすことができます。
お辞儀をする、床の上のものを拾う、からだをひねる、左右どちらかに傾ける、などの動作は、ほとんどこの部分の伸び縮みで行われます。
股関節や背中など他の部位が原因で動きづらくなると、普段どおり生活できるようにこの部分が頑張ってカバーしています。
その分、この部分の筋肉にはいつも大きな負担がかかっています。
筋肉は疲れると硬くなって血管を圧迫し、血行の悪化から代謝に必要な酸素やアミノ酸の補給も不十分になり、疲労の回復が遅れます。

股関節

また、下半分の腰骨がある部分(お尻)には、脚の筋肉と連動して歩行動作をする大殿筋小殿筋があります。
この2つの筋肉は、脚の筋肉が疲れなどでスムーズに動けないとき、それを補うようにはたらきます。
すると本来の設計以上の動きをするので疲れて硬くなり、血管圧迫・血行悪化から、疲労の回復が遅れて柔軟性が失われていきます。

このように、股関節(骨盤と大腿骨の関節)や背中全体、太ももなどの不具合はすべて腰の負担を増やします。
よく働く分腰の筋肉はいつも疲れていて、ちょっとした身動きで限界を超えるギリギリの状況にあるので、本当はほかの部分に不具合があっても、「腰が痛い」と感じてしまうのです。

⑶股関節のこわばりと腰痛

股関節の位置
★印が股関節

そもそも股関節の場所ってどこでしょうか?
大腿骨が骨盤のくぼみにはまっている場所で、図の赤い星印のあたりです。
「股」関節と書きますが、からだの正面ではなく、横にあります

さて、おじぎをする動作で上半身を前かがみにさせるのは、半分が腰、残り半分は股関節です。
なので、股関節の動きが悪いと腰の受け持ち範囲が広がって腰の負担が大きくなります
股関節は、骨盤のくぼみに大腿骨の頭の球形部分がはまりこみ、それを周りからたくさんのじん帯や筋肉でおさえこんで安定させるつくりになっています。

だから大腿骨を骨盤からはずす動き、たとえば椅子に座って脚を組む動作や、正座を崩した姿勢(片座りとか横座りといわれます)は、股関節を安定させている筋肉に大きな負担をかけます。
それらの筋肉が疲れてかたくこわばれば、股関節の可動性が下がりますから、同じ日常動作を続ける場合の腰の負担が大きくなります。

横臥位(横向きで寝る)がクセのかたで就寝時に寝返りが少ないのも、股関節を固くする一因になります。                       
また、背中の筋肉が疲れてこわばっている場合も、同じように一番可動性が高い腰に負担がかかって「腰痛」として感じられます。

⑷ぎっくり腰は、冷やすべき? あたためるべき?

ぎっくり腰
突然襲ってくるぎっくり腰

思いもかけないときに襲ってくる強い腰の痛み「ぎっくり腰」。
心身の疲れから回復力が低下し、さらに季節の変化に乗り遅れると、普段からしわ寄せを受けている腰に違和感が出始めます。
さらに休まず無理を重ねると、伸び縮みの機能が極端に下がった筋肉(筋膜)が限界を迎え、小さな日常動作すら「ヒビ」が入ったような激痛をともないます。

自宅でできる手当として、とりあえず「冷やす」か「温める」かどちらだろう、という疑問に突き当たります。
ここでのポイントは「自分の感覚」を信じることです。

体力がある人や若い人の急に出た熱をもっている感じの痛みなら、内出血や炎症を小さく食い止めるために冷やします
入浴も我慢するか、シャワーだけにしたほうが無難です。
炎症がおさまったら冷やすのをやめた方が回復が早いので、2~3日で冷シップなどをとりましょう。

一方、もともと腰痛や肩こりなど筋肉の疲れがあり、やして(或いは温めて)嫌な感じや痛みが増したら、冷やす(或いは温める)のをやめます
入浴して楽になるなら温め、つらさが増すなら冷やします。

ぎっくり腰になるときは、心身ともに疲れていることが多いので、いずれにしても安静第一ですごしましょう。
疲れの度合いがよほど大きい場合以外は、2~3日安静にしていれば痛みや身動きは改善していきます。
でも、おしりや脚にしびれが出たり、2~3日しても改善のきざしがみられない場合は、整形外科受診や鍼灸治療を検討なさるのがいいでしょう。