睡眠は、食事や運動と並ぶ健康維持の大きな柱です。
今年のように暑い夏は、エアコンで室内温度を調整しても寝苦しさは残ります。
そんな夜が続くと疲れがだんだん重なって、自律神経の調子も悪くなり、少し気温が下がる秋口に、一気に体調が崩れる、ということも起きかねません。
そこでまず、自力でできる睡眠の質改善の方法について見てみましょう。

1寝返り

⑴「寝返り」の重要性

寝返りは成長の指標

普段あまり意識されない「寝返り」ですが、血液・リンパ液・関節液の循環を促進して疲労回復や免疫向上に貢献する役割がある、とても重要な生理現象です。
ひとは、睡眠中も無意識に寝返りを打とうとしますが、枕の高さが適切でないとうまくいかずに睡眠が中断されて、熟睡できません。

日々の何気ない姿勢からコリや痛みが起きますが、このことは眠っている間も同じです。
睡眠中の姿勢と寝返りも健康に大きくかかわってきます。
寝返りは、昼間の仕事でのかたよった筋肉の使い方による筋肉のアンバランスな引っ張り合いをリセットする働きがあるので、自由に寝返りが打てる環境がないと、健康はたもてません。
熟睡できず、翌日まで疲れを持ち越してしまうのです。

⑵睡眠の質を下げるのは・・・

①敷布団がやわらかすぎる

寝具によって腰がしっかり支えられると、腰を中心にして楽に寝返りが打てるので熟睡できます
やわらか過ぎず硬過ぎず、適度の弾力でからだをしっかり支えてくれる寝具が理想的です。
寝具が柔らかすぎて腰が「埋没」するようだと、動きにくくて寝返りが減り、からだが痛くなって眠りが浅くなります。
反対に硬すぎると寝にくいために寝返りばかり打ってしまい、なかなか寝つけません。

腰がしっかり支えられる適切なかたさ     /  やわらかすぎて腰が沈む  /             硬すぎて腰が浮いてしまう

小さな子供さんやペットと一緒に寝る

小さな子供さんやペットと一緒に寝ると、眠っていてもかばうので、一晩中じっと動かずに寝ることが多くなります。
これでは、昼の疲れが回復しない上に、窮屈な姿勢での疲れが加わり、二重のダメージを受けることになります。

端っこに追いつめられる

以前、このごろ左手がしびれる、という30代の女性が来院なさいました。
それほどひどい状態ではなく、しびれがきつい日とそれほどでもない日があるといいます。
背中に触れると、左肩から肩甲骨、腰に掛けての硬さが、右とは判然と硬さが違います。

この女性は、2、3年くらい前に逆子治療を受けにいらしたかたです。
「夜眠るとき、子供さんとはどうやっておやすみですか?」とおききすると、「ずっと同じ布団で寝ています。でも、この頃は子供が大きくなって、あばれるし、ふとんのはしっこに追いつめられてやっと寝ています。身動きもできません」とのことです。
しびれの原因はこの寝方でした。

左腕への血流を回復する治療をしたあと、子供さんはまだ幼いし、その時は寒い季節だったので、
「できるだけ姿勢の自由を保ちながら寝るようにしてください。もう少しあたたかくなったら、別々のお布団で寝るように、子供さんによーくお話しして協力してもらってください」とお話しました。
「寝る場所の親離れ」は、暑い季節が一番向いているのです。

③横向きばかりで寝る

同じ向きの横向きばかり

横向き(側臥位)で同じ側ばかり向いていると、下側の筋肉は圧迫され、上側は引っ張られてかたくなり、ともに血流が悪くなるので、くびや脚の付け根が硬くなって、痛みやしびれの原因になります。
とくに男性で、肩・腕・指のしびれを訴えて来院なさるかたの中では、横向きの腕枕でテレビを見ながら寝落ちするかたが多くおられます。

⑶良い寝具→スムーズに寝返りを打つために!

NHK健康ライフ(NHKラジオ第1)から抜粋し一部改変

「寝返り」は、「寝苦しくて動く」のとは違います。
単純な寝返りは、体の軸の背骨を中心に、右から左、左から右へと転がる行為です。
寝苦しくて、寝心地のいい場所や寝やすい姿勢を探して動くのは単なる「寝返り」とは違いますね。

①枕:こんな不調は「枕」が原因かも

朝からどんより…

立っているときや座っているときに姿勢をよくしようと意識することはありますが、寝るときの姿勢も大切です。
枕が合わない場合も体にストレスがかかり、これを解消しようとムズムズ動いて楽な姿勢を探す動きがみられます。
日中の基本姿勢では、体幹が常に頭の重さや首を体幹が支えていなければなりません。
だからこそ、夜寝るときは昼の疲れがとれるように体に負担をかけない睡眠姿勢で、体幹や首の筋肉を休ませてあげることが大事です。
首まわりに違和感があれば、ちょっと枕を疑ってみましょう。

ところで、寝るとき頭だけを枕に乗せていませんか? 
実は頭だけではなく、自分の肩口まで枕を引き寄せて深めに頭を乗せるのが、理想的な当て方です。
後頭部から首筋にかけて全体で頭の重さを支えることで、首や肩が疲れにくくなります。

爽快な目覚め!

その上で、枕の大事なポイントはふたつ。
 *首の角度を正しく保つこと。
 *スムーズな寝返りが打てること。

枕がからだに合っていないと、朝起き抜けに、肩こり・頭痛・疲労感がある、などの不調を感じることがあります。
1つ以上当てはまる場合は、枕を見直したほうがいいかもしれません。

枕は、肩こりにも非常に大きく関係しています。
首の骨は、前に緩やかな湾曲・カーブを描いていますが、枕の大事な役目は、首のこのゆるやかなカーブを正しく保つことです。
枕が合っていないと首が不自然な角度になって、首まわりの筋肉が緊張し、その結果神経が圧迫すされることがあります。
これが肩こりの原因となって、首筋や肩の後ろ、肩甲骨の周囲に痛みを感じるようになるのです。

枕は頭痛にも影響します。
頭痛には、首の筋肉のこりが原因で発症する「頸性頭痛」があり、首の姿勢や首にかかる負担によって起こります。
また朝起きたときの疲労感についても、枕が合わず寝返りがスムーズにできなくて熟睡ができていないことが原因かもしれません。

☆自分の枕がからだに合っているかセルフチェック

①朝、枕がドーナツ形にへこんでいないか → へこんでいるなら、枕がやわらかすぎて頭が沈み込んでアゴが上がり、首が不自然に反り返って、首に負担がかかっています。
②枕がずれたり、頭が枕から落ちていないか → 頭が枕に乗ってさえいないのは、眠りながら体が枕と格闘し、「ないほうがマシ」とはずしてしまった可能性もあります。
③枕を肩の下に引き込んで寝る、枕の下に手を入れて寝る、敷ふとんや敷パッドなどを手で押して寝る、などの場合 → 枕が低すぎて自由に寝返りができないので、枕の高いところを求めた結果、寝相として癖になっているのかもしれません。

②敷ふとん

よい睡眠姿勢をさまたげない寝具とは、どういうものでしょうか。
大事なのが「敷ふとん」と「掛ふとん」、そして「パジャマ」の選び方です。
やはり、優先すべきは寝返りのしやすさです。
それぞれ素材によっては寝返りを妨げる原因となるので、注意が必要です。

☆敷ふとんで一番大切なのは、重たい腰が沈まないこと
人間の体の重さの割合は、頭、肩、腰の順に、およそ1:3:4の割合。
つまり腰が一番重くなります。
そのためベッドや敷ふとんがやわらかすぎると、腰が「く」の字に沈み込んで、頭の沈みと腰の沈みの差が大きくなり、首にも腰にも負担がかかります。
やわらかすぎる素材は、何かを上に足したとしても腰が沈み込むことに変わりはないので、できればやめましょう。
逆に少し硬すぎる場合なら、敷ふとんの下に毛布を足すなどして、腰が反るような硬い感じ、圧迫される感じがないかどうか確認しながら調節も可能です。
やわらかさの目安としては、畳の上に綿ふとん1枚くらいの硬さがよいといわれます。

寝返りの打ちやすさも大事です。
仰向けに寝て両腕を胸の前でクロスし、両ひざを立てて左右に回転してみて、
腰や肩に力が入らないか、肩と腰が同時に寝返りを打てているか、をチエックします。
寝返りの打ちやすさは枕の高さによっても変わるので、敷ふとんと枕は一緒に調整したほうがいいでしょう。

③掛ふとん

掛けふとんは重さ素材カバーに注目します。
まず、寝返りが打ちやすいように軽いもの、とくに軽くて暖かい羽毛ふとんはベストです。

次に素材について。
寒い時期には、毛布を使うかたも多いと思いますが、毛布は起毛素材でパジャマにまとわりついて寝返りを邪魔することがあります。
そこで「羽毛の掛けふとんの上に毛布を掛ける」のが寝返りが打ちやすくなっておすすめです。
毛布を直接からだに掛けなくても、寝床に入ってしまえば体温でふとんの中の空気が暖められるので、十分暖かく感じながら眠ることができます。

カバーに注目するポイントは?
カバーがからだにまとわりついて、寝返りの邪魔になることがあります。
カバーをつけずに掛けふとんだけだと、寝返りもスムーズです。

最後はパジャマ。
首まわりにフードが付いているもの、汗を吸うと重たくなる素材、モコモコしたフリースなどは寝返りの妨げにもなります。
また、パジャマの上衣のすそはズボンの中に入れて、動きやすい状態にととのえます。
こうすると、おなかが冷えないだけでなく、寝返りがしやすくなります。

また冷えについては、「冬は重ね着をして靴下をはいてふとんに入る」というかたもいらっしゃるようですが、これでは寝返りが打ちづらくて血流が悪くなり、体温が下がって逆効果になってしまいます。
寝返りがスムーズにできれば、自然と体温が保たれてあたたかく眠れます。

机に突っ伏した女性
腕の下に厚いファイルなどを入れると楽になるのに…

2 仮眠もよい姿勢で快適に

日中の15~30分程度の仮眠には疲労回復の効果があり、作業効率向上に役立ちます。
でも、姿勢が悪いと逆効果になります。
どのような姿勢で仮眠をとるのがいいのでしょうか。

首枕で気持ちよさそうに寄りかかる女性
首枕 / ネックピロー

デスクでうつ伏せになる場合は、厚めの本やファイルなどをデスクの上に積み重ね、その上にタオルを厚めに敷いて頭を乗せると、首の負担を軽減できます。
実際には、辞書を4冊くらい重ねた上にタオルを敷き、テーブルから体を少し離して、体ごとあずけるように、頭を本の上に乗せます。
そのとき、おでこではなくて、右か左のほおを乗せるように横向きになると首が安定します。
両腕は積んだ本をかかえるように、向こう側に置きます。
首に適切な角度になるようタオルの厚さで微調整し、首に負担をかけないようにすることが大切です。

イスの背もたれが頭まである場合や、飛行機や新幹線での長時間の移動では、背もたれに寄りかる時間が長くなるので、首枕を使うのがおすすめ。
仮眠をとるときも首がグラグラしないので、首の筋肉を休ませることができます。

スポーツタオルを使って即席の首枕を作ることができます。
くわしくは「コラム」をご覧ください。

3 寝落ちについて

⑴寝落ちはいけません

入眠前のスマホ

テレビを見ながら、あるいはスマホをいじりながら、本を読みながら、自分でもわからないうちに寝入ってしまうことがあります。
最近では若い人を中心に、このような寝方を「寝落ち」と言うそうです。
もともとは、オンラインゲームやチャットのやり取りをしながら眠ってしまい、そのうちに接続が解除されてしまうことから生まれた言葉だそうです。

この「寝落ち」、実はからだによくありません。
質の高い睡眠に支えられて、安定した健全な生活を送るには眠るためにしっかりと準備して眠る態勢を作り、ここから先は眠る、というきちんとした区切りが必要です。

「眠る」という行動を意識しないで、スマホやテレビを観ながら、あるいは本を読みながらダラダラと眠りに入ることは、いつも違う時刻に眠ることを意味します。
すると、結果として起きる時刻も定まらず、規則正しい生活とは言えなくなります。
こうした生活が長く続くとその延長線上には、入眠障害など様々なかたちの不眠症が待ち構えています。

⑵「寝落ち」を誘う要因

「寝落ち」を誘うファクターはいくつか挙げられますが、最大のものは睡眠不足です。
ひとは通常、睡眠時間が6時間を切ると眠気を感じます。
睡眠不足の上に、仕事や勉強などで疲れて遅い時刻に帰宅すれば、家に着いたとたんに安心し、疲労と気のゆるみから寝落ちしやすくなるでしょう。
また、夜の外での飲酒でも、帰ったとたんに気がゆるんで、ズルズルと眠りに落ちてしまう可能性が高くなります。
つまり、「寝落ち」は良質な睡眠がとれていない証拠ともいえます。

ソファーで寝落ち

でも、「寝落ち」では良質な睡眠がとれません。
ぐっすり眠るには寝心地の良い寝床が必要です。
そして、そもそもソファーやリビングの床は、眠るのに適していないのです。

寝具には、
1.睡眠中の体温の確保
2.身体への負担が少ない姿勢を保つ
という、2つの役割があります。
ソファーやリビングの床は、眠るには不向きです。
寝床に入るまでの数分間を節約してその分長く寝られたとしても、残念ながら疲労回復には役立ちません。
翌朝、「ぐっすり眠って爽快」とはほど遠いこわばったからだで目が覚め、すっきりしない頭で1日頑張って、その結果さらに翌日も寝落ちする、という悪循環に陥る可能性が高くなります。

⑶寝落ちの悪影響

とにかく寝てしまう

寝落ちが癖になると、他の生活習慣にも悪影響が…
1.疲れ果てて帰宅すると、なんとか食事だけして即寝落ちしてしまう。      
胃の中に食べ物が滞留しているのは3時間くらいなので、胃腸が消化活動をしている夕食後3時間くらいは起きていないと、睡眠の質が下がってしまいます。

2.入浴しなくなる
寝落ちするときは、「お風呂に入らなければ」と思いつつもとにかく寝てしまうものです。
入浴には、深部体温を一時的に高め、心身をリラックスさせる副交感神経の働きをうながす効果があります。
眠りにつく1~2時間前に、あまり熱さを感じない程度のお湯につかると、睡眠の質が上がって大きな疲労回復効果が期待できます。
入浴抜きの寝落ちよりずっと疲れから回復できます。

3.自律神経のバランスが乱れやすくなる
ひとは、交感神経の働きによって活発に動く時間帯と、副交感神経の働きによってゆっくり心身を休ませる時間帯を規則正しく交互に繰り返すことで健康を保っています。
寝落ちによる悪習慣に染まってしまうと、このバランスが乱れて、疲れやすく、肩こりや頭痛、耳鳴り、動悸、日中の眠気、胃腸の不調などの症状が引き起こされやすくなります。

⑷寝落ちをしないために

湯船で明日への英気を養う

寝落ちを避けるには、
1.意志を強く持つ
寝落ちしたいぐらい疲れていても、一瞬だけ「えいやっ!」と気合を入れてお湯を浴びましょう。
お湯を浴びれば、眠気はいったん収まるものです。
いったん眠気が収まったら、そのすきにお湯を沸かすなど用意をして、湯船につかりましょう。
翌朝の気持ちよさに救われますよ。

2.短い昼寝をする
寝落ちしないとからだがもたないほどに疲れないため、15~20分くらいの昼寝をしましょう。
それ以上では、夜の寝つきが悪くなって体のバランスが崩れてしまいます。
もともと午睡はからだの疲労をとるためではなく、脳を覚醒させるのが目的なので、こんな短い仮眠のあとでも、寝る前にくらべて頭がよくまわるようになることが科学的に明らかにされています。
また、カフェインの覚醒効果が出るのは、コーヒーなどを飲んでから20~30分後なので、仮眠の前にコーヒーを飲んでおくと、目が覚めてからすっきりと活動できます。

居眠り運転。度重なる場合は専門の医師の診察を!

3.毎日の睡眠の質を上げるよう心掛ける
食事は、就寝の3時間前にはすませ、シャワーだけで済まさずに必ず湯船につかることが大事です。
そして、ねむる前には携帯電話を見ないこと、軽いストレッチで昼間のコリをほぐしておくこと、などがおすすめです。

でも、眠気がひどく日常生活に支障がある場合は病気の可能性も考えなければなりません。
「睡眠時無呼吸症候群」や「ナルコレプシー」など、睡眠障害の治療を標榜する病医院での受診が必要な病があります。