⒈不眠

⑴睡眠と自律神経

睡眠は、疲労回復を早め、 免疫力を向上させ、 自律神経のバランスを整え、さらには記憶の整理・定着にも欠かせません。
そして、人体の生命を保ついろいろの機能と同じく、自律神経によって調整されています。
わたしたちは、昼は緊張をつかさどる「交感神経」の優位的支配により活発に動き、夜はリラックスをつかさどる「副交感神経」が支配的になるのでゆっくりと休み、昼間の疲れを癒します。
でも、そのスイッチの切り替えがうまくいかないと、夜になっても活動的な状態のままとなり、眠りは一向に訪れません

夜は…

自律神経に刻み込まれた「緊張」とは、命の危機に直面している(と脳が判断している)事態を指します。
はるかな昔、人類がむき出しの自然や他民族の脅威にさらされていた頃の、一触即発の危険に直面して「とにかくこの一瞬を生きのびて、命を先につなごう」という反応が必要(と脳が判断している)な状況なのです。
今の日本の日常生活では不要な反応ですが、文明の進化にからだが追い付いていないので、「とりあえず命を守らねば」というせっぱつまった強い使命感が、いまだに根強く残っているのです。

からだがこういう状態のとき、交感神経の「妄想」の中ではリラックスすることはそのまま「死」につながります。
ですから休むべき状況になっても、全身が「逃げる」または「戦う」ために身構えた緊張状態のままになります。
心臓の鼓動は早まり、手足の先は冷たくなり、食欲も封印されて、「眠る」ことなど問題外になり、「不眠」の夜に突入するのです。

こういう状態になってしまう原因の第一に、しばしば「ストレス」があげられます。
それは、ストレスの渦中にあるときはからだの力をうまく抜けず、寝ても起きても首まわりがガチガチに凝って「首こり」の状態になっているからです。
こうした状態では、首の筋肉のかたい凝りが脳に血液を送る血管を圧迫します。
その結果、脳への血流がほんのわずかですが減少します。
わずかな減少ではありますが、最重要器官である脳への血流減少です。
命を守ることを最優先にする自律神経の司令塔、「視床下部」が見逃すはずがありません。
敏感に察知して、全身に非常態勢つまり緊張状態になるよう指令を出します。
迷惑な指令ではありますが、命を守ることを第一とする交感神経の役割りからは必然なのです。
そして残念ながら、一定以上の緊張が続く限り、しっかりした「眠り」は訪れないのです。

さて、鍼灸治療はソフトな刺激で首こりを改善し、交感神経優位を緩和して緊張を取りのぞき、不眠を解消します。
事実、長く鍼灸治療に通ってこられるかたの中には、治療後の深い眠りを楽しみにしておられる方が大勢いらっしゃいます。

⑵睡眠と体温

ぐっすり眠る

寒い季節、寝床があたたか過ぎても、冷たいのと同様、よく眠れないことをご存知ですか?
睡眠と体温は関係が深く、睡眠中は体の深いところの温度(深部体温)が、起きているときより1~2度低いので、眠りに入るときは、手足の末梢血管が広がって放熱し、深部体温を下げようとします。
赤ちゃんが眠いとき手足がポッポとあたたかいのは、こういうわけです。
そして、わたしたちが眠気を感じるのは、この体温が下がるときです。
うまく下がらないと寝つきが悪く、熟睡もできません。

そして、寝床の中の快適温度は四季を通じて33℃くらいといわれています。
寝床の中がこの温度を超えて温かすぎると、末梢からの放熱が妨げられて、深部体温がうまく下がりません。
すると、時間が経っても、すぐにも仕事ができそうなくらい元気よく目が覚めたままになり、やっと眠れてもすぐ目が覚めてしまう、ということが起きます。
これは、深部体温が下がらないため、からだの中の「on/off」のスイッチが切り替わらず、日中と同じ「on (交感神経優位)」のままだからです。

電気毛布などの上手な使い方として、寝床に入る前に十分あたためておいて、自分が横になるときに電源を切るのがよい、と言われます。
必要な水分を失わないためにも、あたため過ぎには注意しましょう。

耳閉感・耳鳴り

⑴耳閉感・耳鳴りの原因

めまい
耳鳴り・耳閉感

耳がつまる感じ(耳閉感)や耳鳴りの原因はいくつかあります。
鍼灸で対処できるのは、「ストレス・疲労による血流不足が原因で神経伝達に不具合がある場合」です。

ちょっと、耳閉感や耳鳴りの原因全般を見てみましょう。
外耳では、耳垢や水など異物がふさいで起こる。
中耳では、中耳の中の空気圧と外界の大気圧の差で起こる。
  →「耳管狭窄・耳管開放」が原因
内耳では、神経と密接につながっているので、ストレスや疲労による自律神経の乱れの影響を受けて、聞こえの神経がダメージを受ける

耳閉感の原因を考えるとき大事なのは、「中耳の中の空気圧」と「外界の大気圧」です。
列車でトンネルに入ったり、エレベーターやロープウェーなどの乗り物で急激に高さが変化すると、耳がつまる感じになることがあります。
あの時感じるのと同じ異常が、自分のからだの不調によって起きてしまうのです。

からだには、「耳管」というノドと中耳をつなぐ長さ3.5cmほどのトンネルがあり、高さ(気圧)の急激な変化などが起きた場合、ここで外界と中耳との気圧の差を調整して、聞こえを確保するようになっています。
このシステムがうまく機能しないとき、耳閉感が起きるのです。
「耳」という「構造物」をつくっている主な「材料」は、もちろん筋肉です。
そして筋肉は「こる」ものです。
つよい緊張が長期間続いたり、突発的に想定外の緊急事態に直面したりすると自律神経のバランスが崩れて、中耳と内耳の空気圧に差ができて、耳閉感やさらには耳鳴りが生じます。

耳管の異常としては、「耳管狭窄」と「耳管開放」の2通りがあります。
くわしくは「コラム」をご覧ください。

⒊めまい

⑴めまいの原因はつかみづらい

多くの人が経験している「めまい」ですが、じつは現代の科学をもってしてもわからないことがたくさんあります。

「日本めまい平衡医学会」によると、「めまい」とは、
【安静にしている時あるいは運動中に、自分自身の体と周囲の空間との相互関係・位置関係が乱れていると感じ、不快感を伴ったときに生じる症状】と定義されます。
・自分や周りが回っている、
・地面に対して垂直に立っているかどうかわからない、
・雲の上を歩くようにフワフワする、
・谷底に引きずり込まれるように感じる
などの感覚を指します。

脳は、
* 三半規管や耳石器など耳からの情報
*目からの視覚情報 
*手足や頚などの関節や筋肉からの知覚情報     を合成して自身の姿勢を認識しています。

立ちくらみ

異常が起きて、脳に伝達される情報の整合性が失われた場合、食いちがいが小さければ脳が補正できますが、何かの理由でこの補正機能が十分に働かないと脳が混乱したままになって、平衡感覚に狂いが生じてしまいます。
この状態が「めまい」です。

ですから、
 *内耳の病気だけでなく、
 *視覚
 *頚や腰の異常
 *(それらの情報を整理・統合する)脳の病気でも
「めまい」を感じるようになります。
「めまい」で多くの種類の検査が行われるのは、こうした広い範囲の異常を総合的にチェックする必要があるからです。

西洋医学では、いまだ「めまい」の原因について不明な部分が多く、また分類についてもきちんと定まった見解がないようです。
西洋医学では、原因を明らかにすることが治療の第一歩なので、今のところ、「めまい」に対処できない部分も多いようです。
そのため、自律神経や精神的な問題が原因とされて心療内科を紹介され、脳内物質に関係する薬の処方を受けて、次第に症状が増え、いっそう具合が悪くなるケースも多いようです。

⑵頚性めまい

「頚性めまい」とは、首からくるめまいのことです。

「日本めまい平衡医学会」では、頚部をひねることで起こる「めまい」の原因として、次の三つをあげています。
1.頚部の骨・筋肉・靱帯に異常がある場合  
2.頭部の回転による椎骨動脈の圧迫で起きる血流悪化
3.椎骨動脈周囲の交感神経線維への影響
  3.の場合は、めまいのほかに、痛み・筋肉の凝り・耳鳴りなど多彩な症状が見られます。

★頚性めまいと症状がかぶる病名に「メニエール病」がありますが、ちょっと詳しくは「コラム」をご覧ください。

⑶鍼灸治療と「めまい」

中医学では、「清陽不昇(せいようふしょう)」の弁証のもとに気を通す治療をします。

「清陽」とは、呼吸によって大気から得た「宗気そうき」と飲食物から得た「水穀すいこくの気」が合わさった「気」で、この「気」がからだの細部まで循環して、人体が養われ、正常に機能する、と考えます。「不昇」とは、「のぼらない」ことです。
つまり、「清陽不昇」とは必要な「気」がからだの上部に運ばれずに、脳をはじめとする頭部の器官が養われないので正常に機能しない、という意味です。
ここで、気を通す治療をすると全身の気が巡って、脳・目・耳など平衡感覚に関係する器官もしっかり機能できるようになり、「めまい」の症状が改善されます。

当院では、耳への気血の流れを良くするツボと、西洋医学的にみて血流を改善するツボとを併用して、最も効果的かつ効率的な治療をしていきます。