妊娠中に鍼治療を受けるのは安全?   とか、
逆子には鍼灸治療が効くと言われたけど、鍼灸治療なんか一生縁がないと思っていたので、不安でたまらない、、、
今まで妊婦さんのこうした切実な言葉を、何回もお聞きしてきました。

《鍼灸治療は、妊娠中に受けても大丈夫ですか?》

赤ちゃんを支える胎盤は、妊娠13週くらいででき上り、ここで胎児への血液供給が安定します。
長い鍼灸治療の歴史の中で、妊婦さんに避けたほうがよい手技の研究は尽くされています。
当院では、国家資格を持つ経験豊かな鍼灸指圧マッサージ師が治療するので、ご心配いりません。
とはいえ、13週以降の胎盤の機能が安定してからのほうがより安心です。
13週を過ぎたら鍼灸治療をお供に、マタニティライフを楽しみましょう!

⒉妊娠中の鍼灸治療の効果

妊娠中はゆったりと

《鍼灸自体こわいけど、妊婦に良いことがあるの?》

わずか2個の細胞から出発して、外界で生きていくのに十分なところまで体を作っていく赤ちゃん。
応援するには、お母さんはなるべく緊張しないことが望ましいのですが、現実にはそうとばかりも言っていられません。
そんなときに鍼灸指圧マッサージ治療を受けると、緊張が除かれて、まず妊婦さんの体調が良くなり、胎児の発育も促進されます。
さらに出産時の切開や出血が少なくてすみ、出産にかかる時間も短くなって、妊婦さんと新生児両方への負担を減らすことができます。

⒊妊婦さんと冷え

《昔からタブーとされてきた妊婦さんの「冷え」》

お母さんがからだを冷やしてはいけないのはもちろん、緊張し続けるのもおなかの赤ちゃんには望ましくありません。
赤ちゃんが欲しいのは、ゆったり穏やかで温かく、血流が順調なお母さんのからだです。
人のからだは交感神経優位の緊張状態になると、子宮への血流が悪化するようにできています。
そして、冷えると自動的に緊張モードに切り替わります。
お母さんが冷えると緊張気味になり、全身の血流の悪化から、おなかの赤ちゃんへの酸素や栄養素の供給が悪くなります。

冷えはNG!

また、妊婦さん自身の回復力も低下するので、むくみやおなかの張り、腰痛などのマイナートラブル※も引き起こし、さらには逆子や出産の遅れにもつながります。
  (※妊娠中に起こる不快だが妊娠自体には影響がない症状)

それでは、「妊娠したら緊張をともなう作業はできないのか」というと、決してそうではありません。
押さえるべきポイントは「いつも赤ちゃんが一緒にいて、その赤ちゃんにはゆったりモードが必要」ということです。
自律神経のバランスで何より大事なのは「適度に」とか「無理せず」という感覚ですが、妊娠中はその感覚の尺度に、赤ちゃんの希望も入れましょう。
自分が何かを「きちんとやり遂げたい/とことん追求したい」と思っても、おなかの赤ちゃんにも相談して、早めにブレーキをかけましょう、ということです。

赤ちゃんが生まれれば、すぐ不眠不休の新生児育児が始まります。
身軽な今のうちは、できるだけ持続的な緊張を避けてゆっくり過ごし、自分をいたわり、少しは甘やかしてもいいのではないか、と思います。
少なくとも、あまりに取り越し苦労をして、自分を追い込のはやめましょう。

⒋スマホ・パソコンの使い過ぎにご用心!

(この項目は、妊婦さんへの一連のメッセージの中で、ここに入れるにはいささか違和感があるのかもしれません。)

個人的に「スマホの画面を見る時間が長いと、安産にさわるのではないか?」という疑問を持っています。
エビデンスがある話ではありません。
とくに逆子ちゃんの治療をしていて、この頃なんとなく思うにすぎません。

当院の鍼灸治療による、同じ週数の逆子状態の解消が、20~30年前に比べて、かなり難しいように感じられるのです。
その頃は、85%以上が治療後、頭が下の正常な姿勢で安定しました。
でもその成功率がしだいに下降気味なのです。
所属する鍼灸勉強会でも、10年以上まえに「このごろ逆子がなおりにくい」と話題にのぼりましたので、当院の技術レベルが落ちたから、という可能性は低いとみてよいのではないか、と考えています。

妊婦さんでなくても、スマホを使い過ぎると交感神経優位の緊張状態になるといわれています。
スマホ自体に原因があるというより、スマホを見たり操作する「姿勢」が問題のようです。
妊婦さんはからだがキツいので、横になって休むことが多いと思います。
そして退屈を紛らわすために、ついスマホを手に取る場合も多いと思います。
このときスマホをちょうどいい位置に保持し続ける腕や手の筋肉、またはっきり見るために首と目の位置を調整する筋肉が疲れて、「首こり」の状態になります。
首こりになれば硬くなった筋肉に血管が圧迫されて、脳への血液供給量が減りますから、子宮も含めた全身が緊張状態になります。
これは胎児にとって居心地が悪い状態です。
でも、おなかの赤ちゃんはよそへ避難することができないので、あれこれ動き回って、結局本来頭があるべきところに収まらず、自然分娩に適さない体勢になってしまうのではないか、と思えるのです。

この考えが正しいのかどうかまったくわかりません。
とはいえ、「スマホ首」が健康によろしくないことはいまや社会的な常識になっています。

ご自分とお腹の赤ちゃんのために、スマホの使用を少し我慢したり、使うときの姿勢に気を付けることは、試しても損はないと思います。

⒌逆子(骨盤位)の治療

《妊娠28週で突然逆子と言われて…》

妊娠中期までは胎児はまだ小さく、自由に動き回って、向きも毎日のように変わります。
そして、時間の経過とともに自然の摂理に導かれて、母体からより安全に娩出されるように、頭を下にした姿勢で落ち着く割合が増えていきます。
妊娠後期(28週以降)、子宮内で動き回る余地がかなり減った時点で、何らかの理由で「頭を下にして安定しているとは言えない状態」があったとき、医師から「骨盤位(逆子)」という説明を受けることになります。
   
安産のための鍼灸治療には、逆子の解消にも効果があるものがあります。
昔から有名なのが「至陰しいん」のツボ(※)のお灸です。
これはもともとは逆子治療のみが目的ではなく「安産のお灸」です。
なので、逆子状態が解消してもずっと続けることは、安産につながります。
当院では、「至陰」に半米粒大のお灸を複数すえる伝統的な治療に合わせて、おなかを除く全身のツボを指圧と刺鍼で刺激してリラックス(副交感神経優位)状態にし、胎児の居心地をよくすることで、逆子状態の解消を目指します。

(※)「至陰」は足小指の爪生え際の外側のカド

でも残念ながら、「直る可能性が高いケース」「あまり望めないケース」があります。
「直る可能性が高い」とは、
「胎児が回転しやすい」ということで、子宮内にその余地が十分あり、回転を妨げる要素が少ない場合です。
例えば、胎児が比較的小さい、よく動いてまだ頭位で落ち着く可能性がある、逆子になってからそれほど時間が経っていない(だいたい2週間以内)、
などの場合です。

反対に回転しにくいのは、
子宮が細長い、胎盤の位置が低すぎる、子宮筋腫が回転の邪魔をしている、などの理由で、グルっと大きく回転する余地に乏しい場合です。
また、胎児の膝がまっすぐ伸びていて子宮壁を蹴って回転することができない、逆子状態になってから長い期間(だいたい3週間以上)経っている、
ずっと横向きである、などの場合も難しいケースが多いように感じます。
臍帯が胎児の首に巻き付いている(とくに二重以上)場合は、胎児の回転方向との関係でさらに巻き付く恐れもあるので、積極的な逆子治療は避けて、お母さんがリラックスできるように、
交感神経をなだめて緊張を解く治療にとどめています。

いずれの場合も、個々のケースによって違うので一概には言えないようです。

安産は妊婦さんみんなの願いです。
逆子と告げられたショックはとても大きいと思います。
でも何より大事なのは、元気なお母さんが元気な赤ちゃんを無事に抱くことです。
その一点に絞って考えれば、逆子であっても、大事なことは少しも損なわれていません。
一番の胎教は、いつも幸せな気持ちで過ごし、家族が心から赤ちゃんの誕生を待ち望んでいることを胎児に伝えてあげることだそうです。
もう少しです、気持ちを楽に持って赤ちゃんと一体の日々を楽しみましょう。