いわゆる「不定愁訴」とよばれる本人にしかわからない微妙で様々な不調のなかには、「首こり」を原因とするものがかなりあります。
たとえば、「耳の詰まる感じ」や「歯が浮くような感じ」「雲の上にいるようなフワフワする感じ」、さらには、「理由なく気分がふさいで何もしたくない」など、精神症状を疑ってしまうような状態の中にも、「首こり」に起因する場合がかなりあります。
「首こり」とは、字のとおり「首の筋肉の凝り」です。
そして肩こりと大きく違うのは、「首こり」が自律神経の不調を引き起こす点です。

⒈鍼灸治療で改善する可能性がある不定愁訴の例

普通に生活しているかたでも、「今日も元気!」 とはいえない状態の多くがあてはまります。。

 ・耳が詰まっている感じがする
 ・フワフワ浮いているような、雲の上を歩いているような感じ
 ・目が乾く
 ・唾液が十分出ず、口の中がパサパサ
 ・鼻の中がカピカピ
 ・眠いのに眠れない
 ・食欲不振、胃腸の不調
 ・胸苦しく、息が十分に吸えない気がする
 ・頭が重い、あるいは頭痛がする
 ・じっとしていても動悸がする

 ・イライラする
 ・気が沈む 

 ・全身がだるくいつも疲れている感じ
 ・考えがまとまらず集中力が低下している
 ・何かに追われているような焦燥感がある
 ・リラックスできない

 ・やる気が出ない 
 ・根気がない
 ・楽しくない

⒉自律神経のはたらき(緊張とリラックス)

突然ですが、「脳」の最優先の使命は何だと思いますか?
脳の、最大・最優先の使命は、「自分の生命を守ること」です。
今この瞬間を生き延びて、その先に生命をつなぐことです。
当たり前のことに思えますが、実は根底にあるこの使命が、わたしたちのQOL、つまり「生活(人生)の質」に大きく影響するのです。

戦い!

今の日本のように、安全な社会が築かれる以前は、自然や野生動物、敵対するグループの脅威はじかに肌身に迫るものでした。
緊張して周囲に気を配り、危険が潜んでいればいち早く察知して対応し、一瞬も気が抜けない中で食物も手に入れなければならない厳しい生活です。
常に必死の努力が必要なので、身体機能の面でもこれに有利なように整備されていきました。
自律神経による「自動制御」です。
例えば危険がせまったときは、意思にかかわらずケガしやすい手足の先への血液流入量が減り、戦いや無我夢中の逃走で傷ついても、失う血液の量を減らしました。
その分の血液は、大部分が心臓の拍動が増えて筋肉にいく量に加えられ、戦いや逃走に有利な状態になりました。
また、身体の深いところにある内臓にも送られて安全にたくわえられ、やはり浅い傷で失う血液が減らされました。
命がけの戦いや逃走の最中に、食事をしたりウンチをしたりしていては死んでしまうので、緊張している状態では消化器系の働きは抑制され、唾液の分泌も減り、空腹も感じにくくなりました。

スタンバってしまう

さて、現代の日本では通常「今の一瞬を生き延びる」ために、意識しての厳しい努力は不要です。
不要ですがこの変化は、生物としての進化の速度に対してあまりに急速で、わたしたちの身体は今の安全になった社会に十分に対応できていません。

脳にとっての最大・最優先の課題は「生命を守ること」。
そのための「緊張」の意味は、生命を守るために全力で「闘争」または「逃走」の態勢に入ること、今の一瞬を生き延びるために、余裕など残さず身体機能をギリギリまで駆り立てること、を意味します。
そして今も、脳とからだにとって「緊張」の意味は変わっていません。

「余裕など残さず」というのは、いわゆる「自然治癒力」や「回復力」と呼ばれる、未来のためのたくわえもあきらめる、という意味です。
緊張すると、血流が抑制されて手足の先は冷たくなり、消化器系の活動が抑えられて食欲も感じなくなります。
自分の部屋でゆっくり過ごしているはずなのに、ゆったりした気分でくつろぐことができず、明日の気にかかることがチラッと頭をかすめただけで急に心臓がドキドキする、というのは、出番が減ったこの仕組みが「生命を守るために」いまだにがんばっているからなのです。

⒊首の筋肉に(髪の毛くらいの)鍼を打つ

いきいきと趣味も楽しめます!

鍼灸治療で改善できる不調は、首のコリからくる自律神経の不調が原因のものです。
首の筋肉をゆるめて首から上に行く血液の流れを良くすることで、脳を始めとして、首から上にある感覚諸器官(目・耳・鼻)の機能を本来の水準に戻し、たくさんの「違和感」を低減させます。

首に針を刺す! 字で見ると、
「ひえ~!自分には絶対無理!」となりますが、正確には「首の筋肉に(髪の毛くらいの)鍼を打つ」です。
鍼灸治療は、髪の毛くらいの太さのしなやかな鍼による刺激なので、たとえば手で直接揉んで力を加える刺激よりソフトで安全。
首というデリケートなところの筋肉をゆるめるのに適しています。

⒋首こりの鍼灸治療

わたしたちの生命は、「自律神経系」のはたらきによって維持されています。
意識しなくても「呼吸」をはじめとして、「消化」し、栄養や水分を「吸収」して「排泄」の準備もしています。
これらの生命活動をになうのが「自律神経」です。

この「自律神経系」の司令塔が、脳幹にある「視床下部」です。
生きていくのに必要な活動が正常に行われているかを、常に監視しています。
いっぽう、脳の細胞は大量の酸素を消費するため、脳への酸素供給量が少しでも減少すると、十分に機能しなくなります。
血行不良=酸素不足ですから、脳への血行が悪くなれば脳のパフォーマンスが低下するのです。
だから、首こりによる動脈の圧迫があると、脳そのもののの機能が少しダウンして、広い範囲で多種多様な不調が起こります。

鍼灸治療は、かたくなった首の筋肉を小さな刺激で和らげて、非常事態宣言を出している脳に、速やかに必要なだけの血液を送る態勢に整えることができます。
「不定愁訴」といわれるさまざまな心身の不調のなかには、脳に十分な血液が届けば解消されるか軽くなるものが多くあります。
よく例として挙げられる、不眠・めまい・うつ症状などにとどまらず、
・やる気が出ない
・考えがまとまらず根気もなく、集中力も決断力も低下している
・全身がだるくいつも疲れている感じ
・いつも悲観的な見通しばかりたって楽しくない
、       
など、自分の性格だから仕方ない、と思い込んでいる部分まで変わり、日常生活が驚くほど明るく前向きになります。

やる気まんまん!

首こりによる動脈の圧迫があると、脳そのもののの機能のダウンから広い範囲で多種多様な不調が起こります。
ハリやお灸については、「鍼灸治療の『?』」の項にくわしく書きましたが、治療自体は想像するより全然痛くありませんし、リラックスできるものです。
不定愁訴でQOL(生活の質)が低いまま過ごすより、一度当院の鍼灸治療を試してみられてはいかがでしょうか。

⒌首のかたちと微妙な不調

まず、しばしばごちゃまぜに使われている「首こり」「ストレートネック 」「 スマホ首」という言葉から見ていきましょう。

⑴頚椎はバネ!  

まず、「首の骨」のお話。
ヒトの首は、7つの短い骨(頚椎)がつながってできています。
じつは、細長くそびえる人体のてっぺんに重い頭があること自体が、首の故障の一番の原因になります。
首の筋肉は、重い頭を安定して支えるいっぽう、感覚器官である目と耳・鼻、摂食器官である口を補助するために、素早くしなやかに動かなければなりません。

首の骨は椎骨の連なり
正常な頚椎:緩やかな前彎

頚椎も含めた脊柱(背骨)は、コロッとした「椎骨」が連なってできています。
たとえば大腿骨のような一本の骨だったら、頑丈ではあっても自由に動くことができないでしょう。
それに対して、複数の短い骨をしっかりつないで靭帯や軟骨で補強すれば、強度では一本の骨に劣っても、身動きは自由になります。

この二つを同時に達成するための進化の工夫として、頚椎がバネになりました。
バネとしての弾力を得るために、頚椎は中ほどで前方に出るようにゆるやかに弯曲しました。
これが「頚椎の前弯」で、頚椎がバネの役割を果たすためになくてはならない形です。
その結果、真っ直ぐな棒のてっぺんに 重い球=頭 が乗っている場合に比べて、歩行や跳躍時の着地の衝撃をずいぶんやわらげることができました。
脳や首そのものへのダメージを減らすことができたのです。
ここで大事になってくるのが、重い頭をてっぺんにのせてもからだを歪ませない「使い方」です。

⑵首こり、ストレートネック、スマホ首 

ストレートネック:前彎が無くなっている

「首こり」という言葉は、「首の筋肉がかたくこって困った症状を生む原因になっている状態」を指します。
これに対して、よく聞く「ストレートネック」とは、からだの設計から外れた使い方をされた結果、本来あるべき正常なアーチ(前弯)が失われて、真っ直ぐになってしまった首の骨のかたちを指す言葉です。
スマートフォンを長時間使う人に多く見られるため、「スマホ首」とも呼ばれます。
もちろん姿勢が原因ですから、スマホを見る以外の理由からも起こります。

「ストレートネック」とは、バネの役割を果たすこの弯曲がなくなって言葉どおり真っすぐになってしまった首なのです。
長い進化の試行錯誤の末にやっと獲得した「前弯=バネ」を失えば、当然さまざまな不都合が生じます。
身動きするたびに衝撃がゴンゴンと頭に伝わるので、これを緩和するために、首やノドの筋肉はもともとの設計以上の頑張りで疲れてこわばり、脳をはじめとする頭部・顔面にあるいろいろな組織・器官への血流が悪化し、おまけに「むせやすい」という弊害もともないます。

下向きの固定が一番良くない

ストレートネックを引き起こすのは、首の筋肉のコリ。
その首の筋肉が凝る原因は、本来のバネの役割りを果たせなくなったストレートネックです。
つまり、この二つはニワトリと卵のような悪循環を繰り返しながら、どんどん悪化していきます。

ここで、鍼灸治療で首の筋肉をほぐせば、この悪循環を断ち切ることができます。

⒍ストレートネックと「老後の元気」

首から肩甲骨周囲の筋肉は互いに結びつきが強いので、1か所にコリなどの強い緊張が起きると、すぐにまわりに伝わります。

また、ストレートネックによる不調がはっきり表れるくらいの状態では、首の筋肉の緊張だけでなく、肩甲骨周囲や前胸部、腰、股関節、脚も含む全身の関節の柔軟性が低下して、こわばりが生じている可能性が高いです。
ごくゆっくりとこわばりが強くなるので自覚しにくいですが、実際にはご本人の毎日の暮らしの差しさわり(QOLの低下)となっている場合も多いのです。

元気な老後
元気な老後

また、テレビなどで「とても元気な高齢者」として話題になるかたたちの共通して見られるのは、「首が前に出ておらず」かつ「背中がまっすぐ」という姿勢です。
これは、首の筋肉の凝り、いわゆる「首こり」からの血流の悪さが少なくて、脳をはじめとする目・耳・鼻などの機能不全が起きている可能性が低いことにつながります。

もともと人体は、重い頭を真下から背骨で支える設計になっています。
良い姿勢とは、ただ背中が真っ直ぐというだけでなく、鎖骨が広く開いて、胸が前にすぼまっていない状態です。
この姿勢を保つにはなかなか筋力が必要です。
表面にあって外からよく見える大きな筋肉(表在筋)だけでなく、もっと深いところ、骨に近いところにある小さな筋肉、いわゆる「インナーマッスル」のバランスの取れた働きも大事です。

「姿勢は大事」と漠然と思うだけでなく、とにかく首と背骨のつなぎ目で、手で触れてはっきりわかる首がガクンと折れる原因になる姿勢、つまり首だけを前に出すような姿勢を長時間保つのは、絶対に避けましょう。
それが元気な老後の決め手になります。

⒎微妙な不調と西洋医学

誰にもわかってもらえない微妙な不調

「鍼なんてイヤ、病院の薬が一番!」
確かにそうかもしれません。
でも、ちょっとお時間をいただけませんか?

自分では心やからだの不調を感じるのに、病院の検査では「異常なし」とされることがあります。
人体は精巧なので、「好調・快適」の範囲から少しでも外れるとすぐ感知します。
いっぽう、その程度があまりに微妙な段階では、数値や画像として客観的に把握できず、結果として病院の検査では「異常なし」とされます。
こうした外に表れない不調は、ほかの人にはわかりにくく、周囲の理解が得にくい場合も多いのです。
またご本人も、「これは愚痴だ」とか「自分が我慢してればいいんだから」と心の中に押し込んでしまうこともよくあります。
そのため患者さんからすると、上記「⒈」に挙げたようなさまざまな不調があるにもかかわらず、「異常なし」とされて納得がいかず、モヤモヤとした気持ちで暮らすことになります。

不定愁訴」という言葉があります。
名前からしてとらえどころがありませんが、ここにはベースとして西洋医学的な見地があります。

西洋医学では、具体的な数値や画像から原因が判明しないと治療が始まりません。
ですから、ご本人にしかわからない、データとして客観化できない症状に対処するのは苦手です。
こうした感覚的・主観的でご本人にしかわからず、しかもその時々で微妙に内容が変わる「不調感・不快感」は、ひっくるめて「定まらないつらさの訴え」つまり「不定愁訴」と呼ばれるようになりました。

いきいきした毎日!

というのも、西洋医学の治療はまず原因究明から始まるので、西洋医学的な諸検査で明らかな異常が出ない場合は、はっきりした病名が付きません。
病名がつかない以上、治療法もわからないことになります。
となると患者さんは、周囲に自分の状態の説明としてはっきりした病名を挙げることができず、つらさが周りから見てわかるものではないこととあいまって、周囲の理解を得るのが難しくなります。
そのために「気のせいだ」「自分の気の持ち方で変えられるのに」「我慢が足りない」などと自分を責めてしまう場合もあります。
そして、次第に考えが暗いほうにかたよっていき、鬱っぽくなってしまう点が、「不定愁訴」の一番やっかいなところです。

ところが、そのうちのかなりの症状が、首の筋肉をゆるめる鍼灸治療で、軽くできるのです。
当院は、首・肩・腕・背中の筋肉と動きのつながりをきちんと理解して治療していくので、はじめての治療でも楽になったと実感していただけます。