「神経痛」は、特定の「病気」を指すのではなく、「症状」を表す言葉です。
その名前は、その症状を出している神経からとられます。

⒈神経痛とは?

神経痛にはいろいろありますが、その名前はその症状を出している神経の名前からとられます。
たとえば、臀部から太ももの後面・ふくらはぎ・スネを通る坐骨神経に痛みや違和感が出れば「坐骨神経痛」、顔の感覚を支配する三叉神経に症状がある場合は「三叉神経痛」とよばれます。

どれも、今までに感じたことがないような違和感から始まり、しだいにはっきりしたピリピリ・ジンジンという電気が走るような痛みや深いところのだるいような痛み、放っておくとさらに夜も眠れないほどの強い痛みへと変わっていきます。

神経痛の原因は、筋肉や軟骨による圧迫、変形した骨による圧迫、さらには腫瘍による圧迫など、さまざまあります。
また感じる違和感もかたく凝ったような感じ、張るような感じ、冷たい感じや感覚鈍麻など、さまざまです。
あまりつらくなる前に、適切な治療を受けることが大事です。

とはいえ、神経痛の中で一番多いのは冷えや疲れでかたくなった筋肉が神経を圧迫して起きるものです。
この場合は、筋肉を少ない刺激で効率的にゆるめる鍼灸治療がよく効く場合が多いです。
治療の選択肢の一つとして考えてみてください。

⒉坐骨神経痛 

おしりから脚にかけての痛み
おしりから脚にかけての痛み

坐骨神経は、腰~おしり~太ももの後ろを通り、名前を変え枝分かれしながら、ふくらはぎやスネ、足先まで続く、長くて太い神経です。
坐骨神経痛というのは、その径路に沿って出る、痛みやジンジンするしびれ、感覚鈍麻、冷感などの症状の総称です。
一般に神経痛は、かたくなった筋肉やじん帯、変形した軟骨や骨などが神経を圧迫しておこる血流悪化が原因です。
坐骨神経痛の場合も、神経を取り巻いている脊柱起立筋や梨状筋などの筋肉、脊柱を支えている靭帯(じんたい)などの柔らかい組織が疲労と冷えで硬くなって、神経を締めつけたことが原因のことが多いです。
とくに少し深いところの筋肉が疲労と冷えで硬くなることは、骨や軟骨が変形・損傷して悪さをするよりずっと一般的で、年齢に関係なく、誰にでも起きる可能性があります。   
こうした筋肉の締めつけが起こる場所は、腰椎の5番目(ウエストの高さ)あたり、すわるとイスにあたるお尻の部分、股関節周辺などで、締めつけの強さが、症状のつらさと範囲に大きく影響します。
筋肉の硬さの問題ですから、レントゲンやMRIなどの画像診断では異状が把握しにくく、「原因不明」とされることもしばしばです。

坐骨神経と周囲(でん部)
坐骨神経と周囲(でん部)

一方、筋肉の弾力を回復して、柔らかい状態を持続させるのは、鍼灸治療の得意技! 
とくに、坐骨神経痛の治療では、硬く締めつけている深いところを直接刺激してゆるめられる、という利点があります。
「深いところを直接」と聞くと抵抗があるかもしれませんが、治療対象は大きくて強く、そのぶん感覚がにぶいうえに、針も入らないくらい硬くなった筋肉なので、小さな刺激では反応せず、効果もありません。
痛みについて言えば、指先に縫い針を刺したときの百分の一よりも弱い感覚しかありません。
また、ごく早い時期の坐骨神経痛では、事前の指圧と跡が残らないお灸、数本の刺鍼で痛みや違和感が大幅に減ります。
さきに書いたように、坐骨神経痛は冷えと仲良し。「ズボン下も靴下も大嫌い」で長年過ごし、こじらせてから来院するかたも少なくありません。
その中には、手術まぎわの鍼灸治療で激しい痛みが楽になり、切らずにすんだかたが何人もいらっしゃいます。
この症状に気付いたら、早目の鍼灸治療がおすすめです。

⒊肋間神経痛

胸や肩甲骨の周りが痛い
胸や肩甲骨の周りが痛い

室内で少し薄着でデスクワークなどをしているとき、18~20℃くらいの
エアコンの風がずっとからだに当たっていると、胸や肩甲骨の周りあたりに
重苦しい感じやピシッという痛みを感じるときがあります。
体表に近い浅いところの痛みに感じられたら、ほとんどの場合「肋間神経痛」です。

その名のとおり肋骨の間を走る肋間神経の痛みです。
でも神経自体に異常がおきているのではありません。
肋骨の周りの筋肉が、冷えや疲れで弾力を失って硬くなり、筋肉の間を走っている肋間神経を圧迫しておこるものです。
体幹が冷えたり、ゴルフなどで体をひねったり、長時間のパソコン作業で腕を浮かせていたりすると、上胸部と上背部の筋肉が疲れてかたくなります。
すると、硬くなった筋肉に圧迫されて、肋骨部(胸・上背部・脇腹)に、痛みやツッパリ感、ジンジンするしびれや感覚鈍麻、また体をひねった時にビッとくる痛み、などの症状が出ます。
この状態が長くなると自力では回復できず、「神経痛」になってしまうのです。
神経痛は、寒い季節の年配者の敵、というイメージとは裏腹に、暖かい季節にも出るし、年齢に関係なく誰にでも訪れる可能性のある厄介者です。
好発時期は、「あたたかくなり始めたころ」と「涼しくなり始めたころ」です。
「もうあたたかくなったぞ!」「まだ暑いぞ!」という思い込みからうっかり冷やして付け入るスキを見せてしまうからです。

なお胸の痛みは、心筋梗塞や逆流性食道炎などでも起こるので、一度内科を受診なさると安心できます。
そして肋間神経痛で間違いなければ、筋肉の弾力を保つことが大事です。
冷えたかな、使い過ぎたかな、と思ったら、入浴や重ね着、使い捨てカイロで温めて、ゆっくり休むと悪化させずにすみます。
さらに鍼灸指圧治療で患部を積極的にほぐし、痛いところをかばって崩れた全身の筋肉のバランスを整えるのがおすすめです。

⒋後頭神経痛

大後頭神経痛、小後頭神経痛、大耳介神経痛の3つを併せて、後頭神経痛と呼びます。
後頭神経痛は、頭皮の感覚神経に起こる「神経痛(神経障害性疼痛)」です。
皮膚の神経が、何らかの理由で過敏になって、独特の強い痛みを不規則に繰り返し発生させます。
場所が頭なので不安感が強いかもしれませんが、あくまで皮膚の神経が過敏になったための感覚異常であり、痛みの他の深刻な事態にはなりません。

赤;大後頭神経 青;小後頭神経

症状  
左右どちらか半分の耳の後ろ(後頭部)から頭頂部にかけて、ご本人がここが痛いとはっきり示せる強い痛みが出ます。
ビリッと一瞬電気が走るような痛みが繰り返され、チクチク、キリキリ、ズキズキとした感じになり、痛みがないときもしびれ感などの違和感があります。
頭全体の痛みや吐き気などは無いことが多い。

原因
大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経の3つは、いずれも頭を支える首の筋肉の間を通って、皮膚の表面側に出ています。
つまり、首の筋肉が疲れてかたくなるとこれに圧迫されやすいのです。
そのため、肩こりが強い方や長時間パソコンに向かうなどの同じ姿勢をとり続けた場合、また精神的ストレスで全身に力が入ったままの状態が続く、などは神経痛発生のきっかけとなります。

原因になるものの例としては、
・血管による圧迫、鞭打ちによるショック
・頭や首の手術、
・感染症(単純ヘルペス、帯状疱疹)
・首の骨の異常(関節リウマチ、変形性頚椎症)など、があげられます。
・神経周囲の筋肉の凝り

鍼灸治療
これら3つの神経痛は皮膚の神経が過敏になって起こるので、揉んではいけません。
刺鍼による治療は、皮膚へのわずかな接触で筋肉の緊張をほぐして神経への圧迫を取り除くので、ほとんど痛みを感じることなく神経痛の痛みから解放されます。

⒌三叉神経痛(顔面の痛み)

顔や歯ぐきの、一瞬だけど耐えがたい痛み…。
それは、三叉神経痛かもしれません。
【三叉神経とは】
三叉神経は,顔の皮膚感覚運動の両方をつかさどる神経です。
感覚を担当する範囲は、顔面の皮膚、鼻腔や口内の粘膜・歯茎などです。
一方、運動面では、咀嚼(そしゃく)筋(噛む筋肉)や下あご周囲の筋肉を支配しています。
三叉神経はこめかみの位置で3本の感覚神経がミツマタ(三叉)に分かれて、第1枝は眼神経、第2枝は上顎神経と呼ばれ、一番下の第3枝のみは運動をつかさどる神経と合して下顎神経となります。

三叉神経の支配領域
三叉神経の支配領域

【症 状】
①突然顔面に、えぐられるような/突き刺されるような/電気が走るような、 するどく耐え難い痛みが生じます。
②発作的で、一瞬から数秒、長くても数十秒から2分ほどですが、10~20分も続くことがあります。
 重症例では、激しい痛みのために体を動かせなくなり、日常生活が普通に送れないこともあります。
③発作の間に痛みがない時間があり、この間は痛み以外の感覚障害もありません。
④痛む部位は、特に第2・第3枝領域に限られることが多い(右図の水色とピンク色の部分)ですが、経過とともに周囲に広がることがあります。
⑤口の周囲や頬、鼻翼(小鼻)などには、軽い刺激から痛みを誘発する「トリガーポイント」を生じることが多く、顔を洗う、歯を磨く、髭を剃る、食事をする、などの日常動作で容易に痛みが誘発されます。
⑥三叉神経痛は50歳代以降に多く見られ,男性よりも女性に多くみられます。
たとえば、
・歯を磨くと歯に激痛が走る
・お化粧をする/洗顔する と顔が痛い
・食事をすると歯が痛い
・顔の特定の部位を触ると痛みが走る
・ひげをそると顔が痛い
などの場合は、三叉神経痛かもしれません。

【原 因】
現在では、三叉神経痛の多くの場合で、血管による三叉神経の圧迫が原因、と考えられています
頭蓋骨の中には、たくさんの神経と、それを養うこれまたたくさんの動脈が、すき間なく走っています。
健康な動脈は、不要な蛇行もせずすっきりと走っていますが、動脈硬化がおこると、曲がりくねって走るようになり、もともと接触しない設計になっている神経にも触れる場合が出てきます。

三叉神経に触れるすべての場合で激痛が出るのか、というとそうではありません。
神経は電線の束のようなもので、1本1本の神経線維は漏電を防ぐために絶縁体の役割をする細胞でおおわれ、保護されています。
ところが三叉神経の根元は、この保護する2種類の細胞の交代部位でもともと被覆が薄く、ちょうどそこに動脈があたると、拍動によって絶えず刺激されて漏電が起こりやすくなります。
すると、顔にお化粧のハケが触るくらいの触覚の信号が、まさに漏電のように隣接する痛みの神経に乗り移り、しかも強い痛みの信号として受け取られて、大脳に伝わってしまうのです。

【鍼灸治療】
三叉神経痛による激痛の原因が、頭蓋内の深いところの血管と神経の不具合では、鍼灸には手が届きそうもない、と思われがちです。
でも、三叉神経は顔面の広い範囲の知覚を受け持ち、こめかみの浅いところで分枝するので、かたく凝った筋肉に圧迫されて、三叉神経痛によく似た痛みが出ることがあります。
たとえば、気を張るデスクワークを長時間にわたって、しかも時間を気にしながらした後などには、健康な方でもコメカミから目の周りにかけて、刺すような痛みが出ることがありますが、あの痛みがそうです。
こうした場合は、鍼灸治療で首や顎関節、こめかみの筋肉をゆるめると、痛みがぐっと和らいで、肩の力が抜けます。
ポッといつもの世界に戻ったように感じられ、即効性がありますから、症状が出ている方は一度試してみる価値がありますよ。

【西洋医学的治療】
まず何科にかかるのか?、という疑問からはじまります。
実際には、強い痛みを感じる場所によって最初にかかる「科」が違うようです。
痛むのが、歯ぐきや口内粘膜なら歯科や口腔外科、顔の表面なら皮膚科などにかかり、そこで脳神経外科を紹介される場合が多いようです。

治療法はいくつかあり、いつ、どの治療法を選択するか、いろいろな治療法についてよく聞いてから決めなければなりません。
1.薬物療法
薬の量を調整しながら、痛みをコントロールすることができます。
副作用として、眠気、ふらつきが起こることがあります。
2.ブロック療法
三叉神経を麻痺させてしまうことによって、痛みを抑えます。
大きな問題点として、 感覚神経自体を傷つけたり切断してしまうので、治療後は継続して顔の感覚が鈍くなります。
3.手術 「微小血管減圧術」
痛みの発生原因となっている神経の圧迫をとるための手術。
開頭手術なので他の治療に比べると患者さんの負担が大きいですが、顕微鏡下での精度の高い手術なので、合併症のリスクは非常に低い。
4.放射線治療
三叉神経の根本に、一点集中で放射線を照射(定位照射)する「ガンマナイフ」という方法です。
放射線は、正常な細胞に対しても悪い影響を与えるので、この選択肢は、薬が効かない、副作用で薬が飲めない、などの場合の最終手段です。