暮らしの中には、「これはからだに良くないんだよネ」と知っているのに、気がつくとしている姿勢がたくさんあります。
それぞれの姿勢がどう悪いか、ちょっと見てみましょう。

⒈脚を組む

多くのかたが、脚を組むのがからだに良くないことはご存じです。
にもかかわらず、仕事や読書をするときに、つい足を組んでしまう人が多いのも事実です。

腰椎への負担が増して椎間板ヘルニアの原因に!

まず、脚を組むとからだに起こる不具合から。
片方の太ももが他方の上に乗るので、下になる方に重さがかかり、大腿部からおしりの筋肉が圧迫されて、この部分にある太い坐骨神経への血行が悪くなります。
それが長引いたり、冷えや疲れで回復できなかったりすると「坐骨神経痛」へと進む場合もあります。

また、上になる脚・下になる脚が決まってくるので、骨盤が歪み、背骨も曲がって、上になる方の脚が見かけ上長くなります。
そして、背骨にゆがみが生じて椎間板に無理な圧が加わり、椎間板ヘルニアが起りやすくなります

骨盤後傾からの猫背と巻き肩

脚を組むことで起こる不調の例としては、
 首こり、肩こり、背中の痛み、腰痛、腰椎椎間板ヘルニア、股関節痛、でん部痛、下肢痛などが挙げられます。
さらに「首こり」からは、
 *頭痛、
 *眼科的症状(目が疲れやすくなる・ドライアイなど)、
 *耳鼻科的症状(鼻腔内が乾く・後鼻漏が顕著になるなど)、
 *自律神経の不調(気がふさぐ・憂うつになるなど)  も起こります。

左:骨盤が後頚 右:正常

ここでご参考までに、「最低最悪の座り姿勢」について。
骨盤には「坐骨」という座るための部分があり、ここで上体の重さを支えることがからだの設計上正しい姿勢を保つことになります。
でも下図の人はおしりを前にずらし、丸めた背中も使って体を支えています。
「骨盤後傾」を前提にした座り姿勢です。

骨盤後傾からの猫背・巻き肩

その結果、重い頭は背骨ではなく、胸郭の前側頚の前側で支えられることになります。
また、前かがみでスマホを持って操作しているので、腕の重さも背骨では支えられず、肩甲骨周囲の筋肉の負担が大きくなり、からだもゆがんできます。
この姿勢が長年続くと、猫背といわゆる巻き肩になって首の筋肉が硬くなり、「首こり」からの上記のようなさまざまな不調が出てきます。

★さて、脚を組む原因の一つに、イスが高すぎることがあるそうです。
膝が股関節より低い位置にあると、そのままでは前にずり落ちそうな不安定さが感じられて、上体を反らせるようになります。
でも、この姿勢を続けていると、腹筋が引っ張られて骨盤底筋に圧力がかかり、腰が痛くなって、呼吸もしづらくなります。
ここで、片方の脚をもう一方の脚に乗せると、膝が腰より高い位置に来て、ずり落ちそうな感じが無くなり、全体としては安定感が得られる、というわけです。

足台で膝を安定させる

とはいうものの、もちろんこの姿勢はからだに良くありません。
座った姿勢で骨盤が安定するように、イスの高さを調節することが大事です。
デスクの下に足台の役目をするものを置いて、膝が腰よりやや高い位置に来るようにするのもおすすめです。

また、こうしたことの予防には、仕事の合間に簡単な屈伸運動をするのはもちろん、ただ立ち上がるだけ、伸びをするだけでも効果があります。
縮んだ筋肉が伸びて血行が良くなり、からだがラクになります。

⒉横ずわり

横すわり

脚を組むのと同じく体が歪むのが、女性が正座をくずして座るときの「横ずわり」です。
「おんなずわり」や「おねえさんずわり」「人魚ずわり」などともいわれる、おしりが直接床や座布団に着いて、つま先が左右どちらかに流れている座り方です。

イスに腰かけて脚を組む姿勢よりももっと骨盤がナナメになり、イラストからもわかるように、上体が大きく歪みます。
このイラストの場合は、左半分が伸ばされて、右半分が押し縮められています。
骨盤だけでなく股関節にも無理な力がかかるので、脚への血流がかたより、膝周囲の筋肉への負担もかなり大きくなります。

⒊寝転んでテレビ/スマホを見る

ふだんどんな姿勢でテレビを見ていますか?
イスに腰かける、床(たたみ)に寝転ぶ、ソファに寝転ぶ、などいろいろあると思いますが、くつろいだ「楽な姿勢」が、本当にからだに「楽」だとは限りません。

⑴側臥位のとき

側臥位でスマホを見る

日ごろ感じる痛みやしびれ、コリなどの原因が、何気なくテレビを見る姿勢にあることは意外に多いのです。
頬杖をついて側臥位でテレビを見ると、時間の長さや頻度によって違いますが、次のような痛みの原因になります。
*寝違えたように首が痛い
*肩と手首が痛い
*腰からお尻の外側にかけて痛みと痺れがある
*片方の脚の外側を中心に痛みと痺れがあり、歩くとき足が前に出にくい
こうした症状のかたの多くが、毎日、寝転んでかなりの時間テレビを見る習慣をお持ちです。

イラストからわかるように、下側になっている首や肩、頭を支えている手首には不自然な姿勢から重さがかかり、同じく下側の臀部や股関節・脚の外側も体重で圧しつぶされています。
当然、血管や神経も圧迫されて血の流れが悪くなります。

これがほぼ毎日繰り返されれば、回復力を超えた損傷が積み重なり、冷えや疲れ・よく眠れなかった、などの理由から、上記のような痛みや違和感が出るのです。
そもそも、テレビは寝転んで観るようには作られていません。
体を起こして観るのがわが身のため、と言えるでしょう。

⑵あお向けのとき

以前30代の男性が来院なさいました。
半年ほど前から両手がしびれ始めて、近頃は動きも悪くなり、整形外科に行ったところ「原因不明」と言われて、どんな奇病なのかとても不安だ、ということです。
立ち仕事が中心の接客販売業務でした。

頭を高くしてテレビ/スマホを見る

種明かしをすれば、テレビを観る姿勢が原因でした。
「胸郭出口症候群」と考えられます。
その方は、ベッドの足元の方にテレビを置いて、クッションなどを重ねて頭を高くし、毎日この姿勢でテレビを観ていたのです。
首を起こしている角度がきつくて、腕の神経や血管を圧迫してしまったのでしょう。
たったそれだけのことでも毎日の積み重ねの結果は重大です。  
もちろんスマホを見る時も同じです。          

お医者さんもご本人も、異変の原因として仕事を疑うことはあっても、家で安楽にくつろいでいる姿勢まではなかなか疑わないものです。
来院される中では、痛みや痺れ・動きの異常の原因が仕事ではなく余暇の姿勢にあった、ということは結構あります。

⑶腹這い

腹這いで読書・スマホ・PCはダメ!

腹這いでスマホを操作したり本を読むのは、に大きな負担がかかります。
人間の頭はとても重く、それが細長いからだの天辺にあっても構造的に耐えられるのは、その重さを脊柱が真下から支えるようにできているからです。
でも、腹這いでスマホを見ると、頭の重さのほとんどは首と胸の筋肉で支えられることになります。

また対象をきちんと見るためには、頭を起こさなければなりません。
そのため、背中の筋肉(脊柱起立筋)が緊張・収縮して、後頭部を引っ張り、頭を上・後方に「のけぞらせる」ことになります。