「腰」の範囲

一般に「腰」とは、
「触ることができる一番下の肋骨と、臀溝(でんこう、おしりの割れ目)の始まるところのあいだ」
とされています。
そして、意外なことに「腰が痛い」と言って来院なさるかたのうち、「腰」自体に原因があるかたは、2~3割くらいです。

⑴ぎっくり腰は、冷やすべき? あたためるべき?

日々の暮らしの中で、思いもかけないときに襲ってくる腰の強い痛みは、一般的に「ぎっくり腰」とよばれます。
さしあたり、「冷やす」のと「温める」のとどちらがいいのか、迷いますよね。

ぎっくり腰
突然襲ってくるぎっくり腰

急に出た痛みで、熱をもっている感じなら、炎症を小さく食い止めるために冷やします
入浴も我慢するか、シャワーだけにしたほうが無難です。
炎症がおさまったら冷やすのをやめた方が回復が早いので、2~3日で冷シップなどをとりましょう。

一方、もともと腰痛や肩こりがあり、疲れや睡眠不足でひどくしてしまった場合は、温めて血流量を増やしたほうが早く回復します。      

冷やすか温めるかを決めるのはなかなかむずかしいですが、ポイントは自分の感覚を信じることです。
冷やして(或いは温めて)嫌な感じや痛みが増したら、冷やす(或いは温める)のをやめます
入浴して楽になるなら温め、つらさが増すなら冷やしましょう。
いずれにしても安静が第一です。

ぎっくり腰は季節の変わり目に多く起きるようです。
心身の疲れがたまると回復力が低下しますが、ここでさらに季節の変化に乗り遅れると、普段からしわ寄せがいきやすい腰の悲鳴ともいえる違和感が出始めます。
さらに休まず無理を重ねると、伸び縮みの機能が極端に下がった筋肉(筋膜)が限界を迎え、ついに何気ない小さな動作すらできなくなって「ヒビ」が入ったような激痛に襲われるのです。

よほど全身が疲れていたり大きな心労があったりする場合以外は、2~3日安静にしていれば痛みや身動きは改善していきます。
でも、おしりや脚にしびれが出たり、4~5日しても改善のきざしがみられない場合は、整形外科受診や鍼灸治療を検討なさるといいでしょう。

⑵腰痛の原因

腰痛の原因はたくさんありますが、ここでは、鍼灸治療の適応範囲内でのことになります。
そして腰痛の原因の中で、大きな割合を占めるのは「冷え」です。
足先が冷えているだけでも、そこにあった冷たい血が心臓に還るとき、腰から熱を大量に奪うので、腰の筋肉の細胞はいつも新陳代謝に望ましい温度よりも低い温度の環境にあり、十分な疲労回復ができないからです。

腰の上半分(肋骨が終わり腰骨が始まるまでの部分)には硬い骨がなく、かなり自由に動かすことができます。
お辞儀をする、床の上のものを拾う、からだをひねる、左右どちらかに傾ける、などの動作は、ほとんどこの部分の伸び縮みで行われます。
そのため、股関節や背中など近くのパーツに不具合があってうまく動かないときも、この部分が頑張ってカバーすることで、普段と変わりなく生活できるのです。
でも、この部分で体幹をを支えているのは背骨(脊柱)と筋肉だけなので、筋肉には大きな負担がかかっており、疲れて硬くなった筋肉によって血管が圧迫され、血行は悪くなりがちです。
血行が悪くなれば、代謝に必要な酸素やアミノ酸の補給も不十分で、疲労の回復が遅れて筋肉の柔軟性も失われがちになります。

股関節周りの筋肉

また、下半分の腰骨がある部分(お尻)には、脚の筋肉と連動して歩行動作をする大殿筋小殿筋があり、脚の筋肉が疲れたり傷ついたりしてこわばり、スムーズな動作ができない時に、それを補うようにはたらきます。
すると、本来の守備範囲以上の動きをせねばならず、やはり負担がかかって筋肉が硬くなり、血管が圧迫されて血行が悪くなります。
当然に、疲労の回復が遅れてここでも筋肉の柔軟性が失われがちになります。

このように、股関節(骨盤と大腿骨の関節)や背中全体、太ももなどの不具合からの無理な体の使い方すべてが腰の負担を増やし、腰が悲鳴を上げて痛み出すので、「腰が痛い」と感じてしまうのです。
つまり、よく働く分だけ腰の筋肉にはいつも疲れがたまって、ちょっとした身動きで限界を超えそうなギリギリの状況いるので、本当はほかの部分に不具合があっても、「痛いのは腰」と感じてしまうのです。

⑶股関節のこわばりと腰痛

股関節の位置
★印が股関節
股関節

そもそも股関節の場所ってどこでしょうか?
大腿骨が骨盤のくぼみにはまっている場所で、図の赤い星印のあたりです。
「股」関節と書きますが、からだの正面ではなく、横にあります

さて、おじぎをする動作で上半身を前かがみにさせるのは、半分が腰、残り半分は股関節です。
なので、股関節の動きが悪いと腰の受け持ち範囲が広がって腰の負担が大きくなります
股関節は、骨盤のくぼみに大腿骨の頭の球形部分がはまりこみ、それを周りからたくさんのじん帯や筋肉でおさえこんで安定させるつくりになっています。

だから大腿骨を骨盤からはずす動き、たとえば椅子に座って脚を組む動作や、正座を崩した姿勢(片座りとか横座りといわれます)は、股関節を安定させている筋肉に大きな負担をかけます。
それらの筋肉が疲れてかたくこわばれば、股関節の可動性が下がりますから、同じ日常動作を続ける場合の腰の負担が大きくなります。

横臥位(横向きで寝る)がクセのかたで就寝時に寝返りが少ないのも、股関節を固くする一因になります。                       
また、背中の筋肉が疲れてこわばっている場合も、同じように一番可動性が高い腰に負担がかかって「腰痛」として感じられます。

⑷鍼灸による腰痛治療

「腰が痛い」という感覚は、体幹をを支えている筋肉の疲れからのこわばりと、そこからの血行不良が原因です。
このような筋肉の疲れは、背中や股関節・おしりなど、連動して体幹を支え、歩行など様々な日常動作をおこなう周囲の筋肉のパフォーマンスの低下からも起こります。
このため、当院では「腰」だけでなく、背筋・でん部・大腿部など連動性が高い部位のツボや、腰痛の特効穴など、広い範囲に刺鍼していきます。