当院が「中医学」の考え方を重視するのは、病因病機の理論体系が確立されていて、客観性・再現性が高いからです。
直感的で主観的な考えにとどまらず、きちんと説明できる治療を目指しています。

1 中医学について

太極図
太極図

《中医学の特徴:東洋学術出版社「中医学の基礎」から》
*人と自然界との密接な関係を重視する(注1)
*基本的な観点は「人体は有機的統一体である」ということ(注2)
*「陰陽五行学説」を根幹としている。(注3)
*「弁証論治」という独特の治療体系をもつ(注4) 
                  
(注1) 人と自然界
・季節や気候が人体に及ぼす影響を重視する
・昼夜・夕が人体に及ぼす影響を重視する

五行相性相克図

(注2) 有機的統一体
人体を構成するそれぞれの部分は、互いに連絡し合い、病気においても影響し合っている。
「五臓」を中心として「経絡」が気血を運行させ、臓腑・四肢を連絡し、上下内外をつなぎ、体内の各部分を調節する作用を持っている。経絡が一定の法則性に基づいて循環することにより、人体の五臓六腑・四肢・五官・肉・脈などの組織機関が連結され、有機的な統一体が完成される。
人体に病変が起こると、臓腑の機能が失調し、経絡を通じて体表・組織あるいは器官に反応が現れる。
また、体表・組織・機関が病んだ場合も、経絡を通じて関係ある臓腑に影響を与える。

(注3) 陰陽五行学説
「陰陽五行学説」は、中国古代の哲学思想。
自然界における事象の発展・変化は、陰と陽の相互作用によるものであるとする「陰陽学説」と、宇宙のすべての事物は木・火・土・金・水の5種類の基本物質により構成されていて、その5種の動態的バランスによって運動・発展が決められている、という「五行学説」が合わさって形成されている。

(注4) 弁証論治は中医学独特の治療体系。
病気の信号を集め、分析・総合し、「証候」を判断することを「弁証」と言う。
「証」は中医学特有の考え方で、病気の段階ごとの病態を把握したものであり、具体的な症状の「症」とは異なり、さらに病気の本質を全面的に、深く、正確に反映している。
「論治」とは、弁証により得られ結果に基づき、最適な治療方法を検討して決定し、実施すること。

2 東洋医学と中医学

・「東洋医学」って何? 
・「中医学」って、「中国の医学」の略? 
・「中医学」って、どういう治療法を指すの?
など、これらの言葉は具体的なイメージがはっきりせずにつかみどころがなく、「なんか、うさんくさい」と思っておられる方も多いと思います。
前二つは、「伝統医学」にふくまれ、「東洋伝統医学」「中国伝統医学」の意味をもっています。
一方、「中国の医学」は文字通り中国という国の医学を指し、含む範囲が地理的にも時間的にもとても広くなります。

大陸から伝来

東洋医学の発祥は4000年以上前の中国とされ、東アジア地域に広まり、発展しました。
日本には、仏教とともに朝鮮半島を経て、飛鳥・奈良時代に伝来しました。
その後日本を含む各地で、中国発祥の考え方を基盤としながらも、それぞれの地域の気候風土、住む人々の体質や生活習慣に基づいて練り上げられ、治療法が確立されていきました。
長い歴史をもち、現在も広く支持されている医学です。

現在の日本の伝統医学界では、経穴などを鍼や灸で刺激する物理療法の「鍼灸医学」と、古典医学書に基づく薬物療法の「漢方医学」の二つを合わせて「東洋医学」と呼んでいます。

3 養生とは?

東洋医学には、「養生ようじょう」という考え方があります。
大ざっぱには字のとおり、「健康に注意して生命力を養うこと=心身を大切にすること」です。

ボーっと空を見上げる

現代のように医学が発達していなかった時代、病気への恐怖感はどれほど大きかったでしょうか。
そこで、そもそも病気にならない、つまり健康状態が「やまい」に傾き始めたらすぐにからだを調整して元に戻すこと、が何より重要と考えられていました。
これが「未病治」という、「いまだ病ならざるうちになおしてしまう」という考え方です。

医療においても「病」と「健康」を区別せず、すべての人を対象とする考えから、一人ひとりの生理状態をそのまま把握することから始めました。
そのため、「治療」と「養生」のあいだにはっきりした境界線はなかったと考えられます。
生理機能を調整・改善して、一人ひとりの健康の回復・促進を出発点とし、病気の予防や再発防止を目標としていたのです。
現代の鍼灸・漢方治療も、この流れに沿っているので、からだにもともと備わっている回復力や免疫力を応援することを第一に考えます。
これらの力、回復力や免疫力は緊張状態(=交感神経優位の状態)では十分に働けません。
その意味で、たとえばフッと空を見上げて「なんてきれいなんだ」と仕事や勉強を忘れて、ボーっと立ちつくすことも、「緊張」をほぐしますから立派な養生の一つと言えるのですね。