「足」というのは、「脚」のうち、くるぶしから先の地面につく部分を指します。
「あし」の部位と名前については、こちらをご覧ください。→「あしの部位の名前と位置」
目次
⒈足の「アーチ」とは

人間の足には、バネとして機能する「3つのアーチ(上に凸の弓形)」があります。
このアーチがあることで、足裏の小さな面積で重い体重を支え、安定し、運動することができます。
①「内側縦アーチ」:母趾の付け根と踵が形成する。
→体重の分散や着地時の衝撃の吸収において重要。
②「外側縦アーチ」:小趾の付け根と踵が形成する。
→小趾に力を与え、歩行時に姿勢の安定を保つ機能。
③「横アーチ」:母趾の付け根から小趾の付け根が形成する。
→足裏の血管・神経などを圧迫から守る。エネルギーを蓄えるバネの役割。

アーチ構造は、「足底腱膜」というとても強い線維の束で作られており、3つが協調してバネの役割を果たす「土踏まず」とよばれる足裏のくぼみを形成します。
3つのアーチは、運動して重さがかかると下がり、重さがなくなると再び上がります。
この上下の動きがバネの役割をして接地の衝撃をやわらげると同時に、片足でも倒れにくい安定性を生み出し、また、力をためるバネ本来のはたらきとして、次の一歩を踏み出す原動力になります。
重要なことは、からだの土台であるだけに、この足のアーチがこわれると、足関節・膝はもちろん全身の運動機能に大きく影響することです。
⒉扁平足と開張足、外反母趾と内反小趾
足部の代表的なトラブルを、図とともに並べてみましょう。
これらすべてのトラブルが、根本を探っていくと筋肉の不具合に行き着きます。


足底は二足歩行の土台です。
その土台の不具合は、上方にある膝・股関節・腰、さらには頚部の痛みや変形のもととなり、生活の質(QOL)を大きく損ないます。
扁平足は、①内側縦アーチが弱って下がったもので、蹴り返しの力が弱くなり、歩くと疲れやすくなります。
開張足は、③横アーチが弱って足底全体が平たく広がり、爪先で蹴り出すためのバネの力が弱まります。
扁平足・開張足、外反母趾・内反小趾、さらには足首が傾いてまっすぐ立てない症状や巻き爪(※)も、足のアーチの弱りまたは形成不全と関係があります。
⒊足のトラブルと筋肉
足のアーチの形成ととくに関係が深い筋肉は、主に長趾屈筋、長母趾屈筋、前脛骨筋、後脛骨筋の4つです。
これら4つの筋肉が、きちんとはたらいていれば、足のバネ構造はしっかりと形成されます。
しかし、逆に筋肉が弱って互いの引っ張り合いのバランスが崩れると、骨やじん帯の損傷・変形を伴うトラブルに発展します。
⑴長母指屈筋と長趾屈筋、前脛骨筋と後脛骨筋、母趾内転筋

踵の近くにある舟状骨が地面近くに下がってくるとアーチが低くなり、扁平足になります。
この舟状骨を支えるのが「長母趾屈筋(ちょうぼしくっきん)」と「長趾屈筋(ちょうしくっきん)」です。
アキレス腱側から内くるぶしの下を通っています。
長母趾屈筋は親趾へ、長趾屈筋は残りの4本へとつながり、足底のクッションの役割を果たします。
さらにしっかり舟状骨を吊り上げるのは、下腿から伸びている「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」と「後脛骨筋(こうけいこつきん)」です。

⑵扁平足


3つのアーチのうち、縦のアーチ①が弱い状態です。
大半の扁平足は「無症状」なので生活上不便はあまり感じません。
でも放っておくと、足裏に痛みが生じて長く立ったり歩いたりできなくなります。
長時間立ったり歩いたりすると足裏がだるくなるのは、扁平足の代表的な症状です。
重度の扁平足の場合、片脚立ちが難しく、足首が内側に倒れて姿勢を保てなくなります。
足は人間が地面と接している唯一の部位なので、その土台にこのような不具合が起こると、からだはなんとかバランスを保とうと無理をし、膝痛や腰痛・股関節痛、さらには頚部痛なども起きます。
そして困ったことに、扁平足は「外反母趾」「内反小趾」といった足部の変形を誘発します。

《扁平足になる原因》
生まれたばかりはみんな扁平足です。
成長して歩くようになると、それにともなって足の筋肉が鍛えられ、アーチができ上っていきます。
でも大人になっても、運動不足で足の筋肉が十分発達しなかったり、筋肉の発育を上まわる体重の増加があると、舟状骨の位置が下がり、扁平足になりやすくなります。
筋肉を鍛えて骨格を正しく整え、もともとの足の設計以上の負担をかけないように気をつけることが、アーチを回復して扁平足から逃れる一番の近道です。
⑶開張足

3つのアーチのうち、横のアーチ③が弱く、中足骨(足の甲にある5本の細長い骨)が扇のように広がってしまうので、「開」いて平たく「張った足」と呼ばれます。
歩行運動の減少と靴の進歩から、足裏の筋肉の違和感を意識することが減り、足のバネがうまく機能していなくてもそれほど気にせずに過ごせることから、歩行時の疲れやすさやだるさなどを気にせずに長期間過ごしてしまい、外反母趾などに至ってしまう場合も多いようです。
《原因》
*靭帯(※)が伸びる
開張足は、中足骨をつなぐ靭帯組織が伸びてゆるんでしまうことで発症します。
足の靭帯がやわらかいほどなりやすいと言われています。
*筋力の低下
特に中年以降では、筋力や靱帯の支持力が低下して、中足骨が扇形に広がってしまいます。
*ヒールが高い靴をはく
高いヒールでかかとが不安定になり、爪先でバランスを取ろうと重心が前に移動し、足の横アーチに負担がかかります。
さらに爪先に痛みを感じることが増え、皮膚が硬くなって厚みを増し「たこ」もできます。
この状態でのヒール高めの靴やつま先が細い靴の常用は、外反母趾になるリスクを増やします。
(※)靭帯は、骨と骨を結び付けて離れ過ぎないようにつなぎとめる組織です。
6歳くらいまでの運動量が少ないと柔らかく形成されてしまう場合があります。
女性の方が男性よりも柔らかく伸びやすいと言われています。
⑷母趾内転筋

「母趾内転筋」は、足の親趾(母趾)を内側に寄せるはたらきをします。
この筋肉は、「斜頭」と「横頭」に分かれており、図で見るとおり「横頭」は足の横アーチと同じように走っています。
つまり開張足は、母趾内転筋が不自然に伸び広がってしまうことで起こるのです。
開張足になると、靭帯も伸びるため母趾内転筋が両側に引っ張られ、元に戻ろうとする力が働いてこの筋肉がくっついている親趾の付け根を内側に引っ張って曲げるように作用し、「外反母趾」になります。
⑸外反母趾

成人のおよそ3人に1人が持っているという「外反母趾(がいはんぼし)」。
母趾(足の親ゆび)のつけ根が飛び出すとともに、しだいに痛みをともないながら趾先が小趾側に曲がっていきます。
この変形により靴が履けなくなり、痛みと不自由に耐えながら日々を過ごしている人も多いのです。
圧倒的に中高年の女性に多く、かかとが高い靴が原因と思われがちですが、ハイヒールを履いたことがない男性でも外反母趾になることがありますし、ハイヒールを毎日履いていても外反母趾にならない女性もいます。
放置すると、変形が進行することはあっても自然治癒することはありません。
扁平足になると重心が前方に移るのでつま先側の負担が増え、足底の母趾の内側についている「母趾内転筋(ぼしないてんきん)」が硬く縮んで、母趾は引っ張られて歪みます。
加えて、幅の狭い、つま先が細くなった靴を履いている人は、母趾が内側に圧迫されて「くの字」になりやすい。

すると足の甲から親指の付け根にかかる「第1中足骨(だいいちちゅうそくこつ)」が内側に折れ、突き出した部分が痛みます。
これが外反母趾です。
扁平足で足底がつぶれると体重や衝撃の分散が十分にできず、歩行時などにもともと負担が大きい母趾の付け根が変形してしまうことになります。
外反母趾の発症に影響を与える生活習慣は、靴を履くこと以外に見当たらないとされています。
幅が狭いハイヒールが外反母趾発症のリスクを高くするのは間違いありません。
外反母趾の状態では、母趾内転筋が常に引っ張られて緊張状態にあり、硬くなっています。
ここで、先が細くなっている窮屈な靴を履いていると、親趾が内側に引っ張られた状態で固定されてしまうことになります。
この状態がひどくなると、本来親趾を開く方向にはたらく母趾外転筋が反対に「内転」方向に働いて親趾を閉じるように働くようになります。
つまり、足の親趾を開く運動をすると、結果的にどんどん外反母趾を増強させることになるのです。
重症の外反母趾の場合、運動療法は専門家の指導を受けましょう。
⑹内反小趾

目立つことが少ない足の5番目のゆび「小趾」は、歩くときに膝が外向き(がに股、O脚)にならないようにする、なくてはならない大事な趾(あしゆび)です。
「内反小趾」は、足の小ゆびにつく中足骨が変形し、小趾の付け根が肥大・弯曲して突き出す疾患です。
小ゆびの骨は小さいため、靴の影響で変形しやすく、足に合わない靴を履く、あるいは歩き方のくせによって内反小趾を発症します。
大きめの靴を好む方やヒールが高い靴をはく方に多くみられます。
また、内股・ガニ股脚の方も発症しやすく、遺伝による関節や骨の異常によっても起こりやすいといわれています。
「内反小趾」は女性だけでなく、男性にも多く見られます。
外反母趾のように痛みをともなうことが少ないので気になさる方は多くないようです。
親御さんが内反小趾である場合は、とくに靴選びや歩き方に気をつけましょう。
痛みや腫れもなく、皮膚も赤くなっていないからといって問題が起きていないわけではありませんので注意が必要です。
⑺足の裏の痛み(足底腱膜炎)

ふだんあまり歩かない人が急に長時間運動して、「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」になることがあります。
「足底腱膜」とは、かかとの骨から足の指の付け根にかけて、膜のように広がっている強靱な繊維状の組織で、足裏の「土踏まず」を支えるとともに、歩行時にたわむことで足への衝撃をやわらげるはたらきをします。
「足底腱膜炎」では、長時間の立ち仕事や歩行などでかかとへの負荷が続くことにより、足底腱膜に小さな傷がついて炎症が起きます。
階段を昇る際やつま先立ちなどで、違和感・痛みがはっきり感じられ、中年女性に多く、朝起床して最初の1歩目や静止後の歩き出しに強い痛みを感じます。
その後歩くうちに徐々に軽減しますが、歩行量が増えるに従い、夕方になると再び痛みが強くなってきます。
放置すると痛みが強くなり、治るまで数ヶ月〜1年くらいかかる可能性があります。
痛みが続く場合は無理をせず、鍼灸治療などを試しましょう。

《足底腱膜炎の原因》
1 マラソン、剣道・バドミントンなどのスポーツで、足に繰り返し強い衝撃を与えて、足底腱膜に負担をかけている。
2 加齢や長時間の立ち仕事などの疲労が蓄積した。
3 足のアーチが高すぎるか、低すぎるかで、足底腱膜に負担がかかっている。
4 ふくらはぎやアキレス腱が硬くて足を引き上げる力が弱く、歩行時強く地面を強くけって足底腱膜に大きな負担をかけている。
5 靴が足に合っておらず、足底腱膜に負担がかかりやすい。
《足底腱膜炎の症状》
症状には個人差があり、急に強い痛みが出る場合のほか、だんだんと痛みが強くなる場合もあります。
歩かずに暮らすことはできないので足底腱膜をかばうのは難しく、一度発症すると治りにくいようです。
⒋予防トレーニング
足は全身の重みを支えるので、体重の増加で負担が増します。
体重は、運動不足と食生活の習慣によって増加しやすくなります。
扁平足、開張足、外反母趾、内反小趾、足底腱膜炎などは、足の筋肉を正しく使えていないことから起こります。
それぞれに特有の条件はありますが、効果が出る共通のトレーニングで、筋力強化を目指しましょう。
家の中で比較的気軽にできる運動なので、日常生活の中に取り入れて、未来の自分への贈り物と思って続けましょう。
足のアーチを真下から支えるのは、「長母指屈筋」「長趾屈筋」という筋肉です。
またアーチが崩れるもとになる舟状骨を上へ引き上げるのは、下腿にある「前脛骨筋」と「後脛骨筋」です。
いずれもすねやふくらはぎにあるので、足首を動かすことで鍛えられます。
どの運動も、違和感や痛みを感じたらそこで止めてください。
身体にとって「がんばり」は、必ずしも望ましくない場合も多いですから。
★「足関節の底屈・背屈」
★「グー・パー体操」
★「タオルギャザー」
★「カフ・レイズ」

【1】足関節の底屈と背屈
くるぶしより下の動きに大きくかかわる前脛骨筋と後脛骨筋をまとめて鍛えられます。
イスに座ってあるいは立って、足首を上下させるだけです。
やり過ぎないように気を付けて、ごく軽くから始めましょう。
まずは短時間で回数も少なめに。しだいに増やしていきましょう。
グッと1日だけがんばるのではなく、ちょこちょこ毎日続けましょう。

イスに腰かけて、足の重さをかけて底屈するのはつま先立ちに近い効果があります。

【2】足のグー・パー体操 左右10回ずつ。
「グー」5本の足ゆびをすべて内側に折り込みます。
足指の骨がはっきりと浮きあがるまで丸めましょう。
「パー」できるだけ足指を大きく、なるべく均等に広げます。
ゆびとゆびの間を広げる感覚で。
ヒールなど、足の前側に体重がかかる靴を履いた日には、とくにおすすめです。
【3】タオルギャザー
図のようにタオルを床に置いて、細長い方の端に立ちます。
5本の足指すべてで、タオルをたくし寄せるようにします。
椅子に腰かけて両足同時に行ってもかまいません。

端までをたくし寄せたら、タオルを広げ直して反対側に立ち、同じようにたくし寄せます。
初めはなかなか思うようにいかずイライラしますが、しだいに慣れていきます。
1日に1~2回、1回に1~2往復を目指して、疲れたら休み、無理せず小間切れでも毎日続ければ、効果が実感できるようになります。

【3】カフ・レイズ
手を添えることで初心者でも安全に行え、正しいフォームの維持にもつながります。
・壁やバーの前または椅子の背をつかんで、足を肩幅(拳1つ分程度)に開いてまっすぐ立つ
・支えに軽く手を添え、バランスを保ちながらかかとをゆっくり上げる
・かかとが限界まで上がったら、つま先立ちの状態で1秒間キープ
・ゆっくりとかかとを下ろして元の姿勢に戻る
・つまさきを安定した適度な厚みの板などに乗せておこなうと、かかとを下したときにふくらはぎが伸ばされて、ストレッチ効果が倍増します。

効果的に行うためには、1セット10~15回を目安に、2~3セット繰り返すのがおすすめです。
あくまで「痛気持ち良い」程度に。無理は禁物です。
立って行うとつま先のほうに体重がかってつらいかたは、座ってタオルを足に引っかけて行う方法もあります。
