日差しがなくても高温環境下で汗を大量にかくと、体の水分やミネラルが失われて体温調節がうまくできなくなり、「熱中症」になります。

⒈熱中症と扇風機

早い段階からエアコンを活用する

体温調節は、間脳の視床下部にある体温調節中枢が行っています。

体温が低いと、無意識に筋肉がふるえて熱を作り、皮膚血管が収縮して熱を逃がさないようにします。
健康な人は、風邪をひいたりして体温が普通より大幅に高くなると、汗をかいて体熱を気化熱として放散し、体温を下げようとします。
「汗をかく=体温が下がる」という等式の成立には、「汗が体表から熱を奪って蒸発できること」が必要です。
それには、気温が体温よりも十分低いこと、周囲の空気にもう少し水を含む余裕があること、という二つが前提となります。

なので、周囲の気温が体温以上だったり、湿度が高くて空気がもう水を含めない状態だと、汗をかいてもその水分は蒸発によって皮膚から離れることができません。
汗が蒸発しなければ、気化熱として体熱を奪うことがないので、発汗で熱を発散することはできません。
つまり、高温・高湿度の環境では、扇風機では体温を下げることができないのです。
ここでエアコンを活用しないと、「熱中症」の危険が高まります。

⒉水温15℃以下の水を飲みましょう

15℃以下の冷水を飲む

私たちの体内では、ほぼ5リットルの水(体液)が循環して、生命活動を維持しています。
体液は、血液の液体成分「血漿(しょう)」と同じですが、細胞と細胞の間にあれば「組織液(間質液)」、リンパ管のなかにあれば「リンパ液」と、存在する場所によって呼び名が変わります。

中でも組織液は、細胞が栄養分や老廃物の受け渡しをする新陳代謝のメインステージです。
仲立ちする水が体内に「十分(適量)」あることが生命活動を維持する大前提で、「水がなければ生きていけない」という言葉の意味です。

汗は、人が気づかなくてもにじみ出ていますが、暑い季節は体温が上がり過ぎないように量が増えます。
ここで水分の補給が間に合わないと、水が足りず「熱中症」や「脱水」の状態になってしまいます。
熱中症予防ですみやかに水分を補給したいときは、15℃以下の冷水が適当です。
これより高い温度の水では小腸での吸収に時間がかかり、大至急必要な脱水状態の解消ができません

⒊熱中症で起こること

熱中症とは、「熱に中る(あたる)」という意味で、暑過ぎて体温の調節が間に合わなくなり、体内の水分が不足し、ナトリウムをはじめとするミネラルのバランスが崩れることです。
予防法を知っていれば、防ぐことができますが、手遅れになると死に至る可能性もある恐ろしい状態です。
熱中症になると、高温障害・熱虚脱・熱けいれんなどの状態が表れます。

◎高温障害

暑くて気分が悪くなったら熱中症を疑う

高温の中で激しい運動や労働を行うと、体温調節の機能が正常でも体温調節が間に合わず、からだの内部の温度(深部体温)が上昇します。
気温38℃で1時間半運動や労働を続けると1.2℃、気温40℃では2時間で2℃、体温が上昇します。
そのまま激しいスポーツや労働を続けると体温は40℃まで上昇し、発汗によって水分とミネラルを大量に失います。
水が足りなければ、体内の物質輸送と代謝がうまくできませんから、全身の臓器で障害が生じます。

◎熱虚脱(失神を伴わない急激な脱力)

めまいや意識障害

<症状>吐き気、めまい、チアノーゼ。重症の場合は意識障害。
    発汗は維持されており体温は42℃を超えません。
<原因>皮膚から放熱するために表皮の血液量が増えて心臓への血液の戻りが減り、血液循環が悪化して血圧が下がって、脳血流が維持されなくなるため。
<対処>涼しい木陰などに移し、冷たい水分を飲ませ、安静にする。
    必要なら救急車を呼ぶ。

◎熱痙攣

首の脇・わきの下・足の付け根を氷のうで冷やす

<症状>その時とくに使われた筋肉が痛みとともに痙れんし、全身へと広がる。
    作業や運動を終えてから数時間後に発症することもある。
    発汗は維持されているので皮膚は湿っている。
<原因>急激な発汗による、水分とミネラルの喪失。
<対処>救急要請をしながら、冷たい水分を飲ませ、太い血管が体表近くにある首もと・腋窩・大腿の付け根などを氷のうで冷やす。

◎熱中症

全身のけいれん

<症状>突然の虚脱、意識障害、全身痙れん。
    発汗が停止し、皮膚は乾燥している。
    血液が血管内で塊になったり酸性に傾くことにより血行不良となり、多くの臓器の機能が下がる。
    解熱剤は無効である場合が多い。
    急性腎不全の合併が多い。
    深部体温が43℃以上の場合の死亡率は80%以上。
<原因>体温調節機能が働かなくなるために発汗が停止してさらに体温が上がり、脳などの中枢神経が機能不全に陥る、という悪循環。
<対処>氷水などを用いてできるだけ速やかに体外から冷却する必要がある。
    救急要請をしながら、冷たい水分を飲ませ、太い血管が体表近くにある首もと・腋窩・大腿の付け根などを氷のうで冷やす。

⒋熱中症の症状と分類

(Ⅰ度)軽度 熱虚脱および熱痙攣

*脳への血流が瞬間的に不充分になることが原因で、「たちくらみ」と言われる瞬間的なめまい・失神が起きる。
 “熱失神”とも呼ばれ、運動をやめた直後に起こることが多いとされる。
 脈が速く弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇の痺れなどもみられる。

夏のスイカは薬!

*筋肉痛・筋肉の硬直
 「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴う。
 発汗に伴うミネラル(ナトリウムやマグネシウムなど)の欠乏により生じる。
 “熱けいれん”とも呼ばれるが、この段階では全身のけいれんはみられない。

*涼しい場所へ移動、安静にして体を冷やす、十分なミネラルおよび冷たい水分の補給
    意識:正常   体温:正常    皮膚:正常   発汗:(+)

(Ⅱ度)中等度・重い熱虚脱

頭痛・吐き気・嘔吐・下痢・倦怠感・虚脱感・気分の不快・判断力や集中力の低下、体がぐったりする、力が入らない、失神などいくつかの症状が重なり合ってみられる状態。
放置あるいは誤った判断を行えば重症化し、Ⅲ度へ移行する危険性がある。

とにかく冷やす

   意識:正常   
   体温:~39℃   
   皮膚:冷たい  
   発汗:なし
涼しい場所へ移動、安静にして体を冷やす、十分な塩分および水分の補給。
症状が改善されない、経口摂取できない、などのときは医療機関を受診する。

(Ⅲ度)重度・熱中症

意識障害・けいれん・手足の運動障害・おかしな言動や行動・過呼吸・ショック症状などが、Ⅱ度の症状に重なり合って起こる。
  <例>呼びかけや刺激への反応がおかしい、ガクガクとひきつけがある、真直ぐ走れない・歩けない
高体温(体に触ると熱いという感触がある)、皮膚乾燥、発汗停止

まっすぐ歩けない

   意識:障害  
   体温:高温  
   皮膚:乾燥  
   発汗:なし
救急車で担送・集中治療室管理。
身体の物理的冷却、体液および電解質補正、抗痙攣・筋弛緩薬投与、播種性血管内凝固対策